研究課題
研究実施計画に沿って、以下の研究を推進した。1.金属クラスターの溶媒和過程と反応過程:昨年度に続き、金属クラスターと簡単な分子との相互作用による溶媒和過程と反応過程に関する実験を継続した。本年度は、通常は全く不活性な金クラスターに特に着目し、酸素分子および一酸化炭素分子の吸着過程を調べた。これらの分子はそもそも金表面にも金クラスターにも吸着しないが、ひとたび水分子が金クラスターに付着すると、これらの分子が吸着され活性が発現する。すなわち、溶媒分子の化学的効果によって金クラスターが活性化される現象を見出した。この成果をまとめて原著論文として発表した。これらは、気相金属クラスターを水など溶媒中での反応研究に展開する足がかりとなる成果である。2.気相クラスターの液相注入実験装置の製作と立ち上げ:昨年度までに設計・製作した新たな真空実験装置について、金属クラスターイオン源、質量選別計、イオントラップの動作試験を行い、目的の金属クラスターを高強度に発生、搬送するイオン光学系を組み上げた。溶媒分子クラスター源の準備も完了し、イオントラップに蓄積した金属クラスターを水クラスターで捕獲する実験に進む。3.液滴の真空への導入と赤外光による融解・蒸発実験:昨年度までに、真空中に直径約50ミクロンの水液滴を生成する実験に成功した。本年度は、その水滴が凍結する過程をレーザー光を用いて観察した。具体的には、直線偏光したレーザー光を液滴に照射し、散乱光の偏光状態を測定した。水滴が凍結すると表面の凹凸で偏光が乱れるが、液体状態では直線偏光が維持される。測定の結果、発生後10 msまでは液体状態を保つことが明らかになり、理論的な考察でもその妥当性が示された。
2: おおむね順調に進展している
最も難しいと考えていた真空中への水液滴の導入が成功し、しかもそれが液体状態を保っていることを実験で確認することができた。さらに、トラップした金属クラスターを溶媒クラスターに取り込む実験装置も主要部分が完成し、液相中の金属クラスターの反応研究に向けて、計画通りに進展した。
当初の計画に沿って、金属クラスターを液相に導入する実験に向けて最終段階に進む。金属クラスターと溶媒分子クラスターとの反応実験、および、真空中液滴の冷却過程の研究と液滴への金属クラスター注入実験を推進して、金属クラスターの液相中の反応ダイナミクスの解明と物質合成を進めてゆく。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (22件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
J. Phys. Chem. A
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http://www.scc.kyushu-u.ac.jp/quantum/index_j.php