研究課題/領域番号 |
23245007
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
小杉 信博 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 教授 (20153546)
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研究分担者 |
繁政 英治 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 准教授 (90226118)
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キーワード | 量子ビーム / 内殻励起 / 溶液 / 液体 / 分子間相互作用 |
研究概要 |
X線吸収分光法は、化学的環境の異なるサイトにある原子を区別した局所構造解析が可能であり、これにより液体・溶液の局所構造解析に強力な手法となりうる。しかし、溶質となる有機分子や生体関連分子を構成する原子を内殻励起する波長の軟X線は、大気や溶液となる水、有機溶剤に吸収される。そのため溶液試料を透過法で測定するには、1μm以下の均一な薄膜が必要であり、これまで技術的に困難であった。本研究では、我々が初めて試作に成功した、100nm以下の精度で液体薄層の厚さが制御可能な軟X線透過吸収セルを完成させることで、液体・溶液の軟X線吸収分光技術を確立し、軟X線吸収分光および共鳴内殻分光による液体・溶液の局所電子構造解析法を確立することを目的とする. 本年度は、まずこれまでの液体セルの試作から明らかになった問題点を解決した。具体的には、まず液体薄層の厚さ制御の高精度化を行った。液体薄層は液体を2枚の厚さ100mmの窒化ケイ素の薄膜で隔てて、その外側を流れるヘリウムの圧力調整により、液体薄層の厚さを制御しているが、ヘリウムガスの流量調整器と圧力表示器をより高精度なものにすることにより、10nm程度の精度で厚さが制御可能となった。また液体試料の温度制御についても、冷却加熱装置をより液体試料に近いところに配置することにより、高精度で制御可能となった。また用いる薄膜を窒化ケイ素だけではなく、炭化ケイ素を用いることにより、炭素、窒素、酸素の吸収端で軟X線吸収分光測定が可能となった。 以上の液体セルを用いて、塩化リチウム水溶液やメタノール水溶液を異なる濃度で軟X線吸収分光測定して、水溶液中の異なる内殻サイト周辺の局所構造を調べた。またピリジン-水の溶液の軟X線吸収測定から、すでに我々のグループで行った芳香族クラスターの第一配位構造とスペクトルシフトの関係が、液体ではどのようになるかを調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試作段階だった液体セルを窓材、膜厚制御、温度制御等の面から検討し、測定装置を完成させるのが1年目の最も重要な目的であり、これについては満足すべき結果を得た。測定結果については3編程度の論文としてまとめるための材料はほぼ得ることができた。1年目は、予算配分方式が例年と違っていたため、当初計画にあった博士研究員の年度途中の雇用は断念した。当初計画通り赤外分光光度計を購入したが、軟X線用の液体セルをそのまま測定できるようにするため、予定外の出費が生じた。また、国際共同のための派遣が予定より長期になったため、必要とする予算が増えた。これらは雇用のため確保していた予算で対応した。
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今後の研究の推進方策 |
完成した軟X線吸収液体セルを利用した局所構造解析を進めるために、当初計画にあった博士研究員を公募選考によって2年目から雇用している。液体セルを利用した国際共伺研究のための研究者招へい計画も予定通り、進めていく。国外における軟X線光電子分光及び軟X線発光分光による液体・溶液研究も国際共同によって実施していく。
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