研究課題/領域番号 |
23245014
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大場 正昭 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00284480)
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研究分担者 |
堀 彰宏 独立行政法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, 特別研究員 (50595064)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 金属錯体 / 多孔性配位高分子 / 環境材料 / 分子吸着 / 外場応答 |
研究概要 |
本研究は、外部刺激により物性および機能を制御可能な集積系および孤立系の金属錯体を創出し、それらを高次に組織化して、個々の金属錯体の機能・物性が連動する高度な刺激応答機能の能動的制御の達成を目指す。そのために、金属錯体の組織化構造と相互作用部位の配置を合理的に制御して、金属錯体分子が動的かつ協同的に機能する相互作用空間をボトムアップ的に自在に構築する手法を確立する。本年度はこれまでの成果を基に、① 刺激応答性金属錯体の設計と合成、② 刺激応答性金属錯体の機能・物性評価および③ 高度機能の発現と制御を進めた。 ① では、新たに集積系では {Co(L)[Ni(CN)4]} (L=Cholest-5-en-3-yl-4-pyridinecarboxylate (1))、孤立系では2核金属錯体 [M2(HPaa)2(NO3)2] (M=Mn, Fe, Co, Zn; H2Paa=2,6-di(acetoacetyl)pyridine (2)) を合成した。 ② では、①で合成した化合物の外部刺激への応答性を評価した。集積系(1)は、ゲスト分子吸着による構造変化に伴うスペクトルの変化を示した。また、H2O 存在下で CHCl3 と CH2Cl2 に対して特異的に応答することを、ゲスト雰囲気下でのラマンスペクトルと粉末X線回折の同時測定により明らかにした。孤立系(2)は溶液状態でpHに応答し、高pH条件では8核構造に変化することを構造解析から明らかにした。また、UV-Vis スペクトルとマススペクトルから、pHに依存した可逆的な構造変化を確認した。 ③ では、{Fe(pz)[Pt(CN)4]}のメゾサイズ結晶が、バルク結晶よりも高感度なゲスト応答を示し、かつ水中でもCS2に応答してスピン状態が変わること、ならびに外場によりCS2放出制御が可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の各項目は、ほぼ予定通りに進展している。特に①の刺激応答性金属錯体の設計と合成において、特異なゲスト分子応答性を示す多孔性金属錯体を合成し、そのメゾサイズ結晶化にも成功した。メゾサイズ結晶は、多孔性金属錯体の細孔機能と骨格の物性を保持できるため、③の高度機能の発現と制御において、ゲスト応答性の高感度化および水中での応答性発現を達成できた。 ②の刺激応答性金属錯体の機能・物性評価では、SPring-8 BL44B2 においてゲスト雰囲気下でのラマンスペクトルと粉末X線回折の同時測定系を確立でき、その応答性と構造の評価が大きく前進した。また、精密構造解析を基にした理論計算から、骨格構造とゲスト分子間の相互作用を見積もり、その応答機構の1つを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を基盤として、① 刺激応答性金属錯体の設計と合成、② 刺激応答性金属錯体の機能・物性評価および ③ 高度機能の発現と制御を引き続き推進する。 ① では、特に磁気または構造双安定な孤立系多核金属錯体を合成する。配位子にゲスト分子と相互作用する部位や極性基を導入し、孤立分子としての光、電場およびゲスト分子応答性に加えて、外場応答により集積化して、物性が大きく変化する系を構築する。また、相互作用部位を増やすことで、集積系よりも選択的かつ高感度な応答性を発現させる。配位子の設計と合成スキームは完成しており、来年度の前半は有機合成を中心に進め、配位子の修飾を拡張を検討する。 ② では、外場として光や電場を用いた in situ 測定系の構築を進める。また、マキシマムエントロピー法による電子密度分布解析による相互作用評価を進める。機能評価に関しては、自作の簡易吸着装置を用いて選択的吸着能の評価を行ってきた。この評価法はスクリーニングには十分だが、正確な吸着能の評価には不十分であった。来年度は吸着装置を購入し、詳細な機能評価を進める。 ③ では、特に水中での外場によるゲスト分子の放出の達成を目指す。本年度に行ったメゾサイズ結晶を用いた実験により、温度を外場とするゲスト放出制御は目途がたっている。来年度以降は、主に pH および光を用いた実験を中心に進める。
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