研究課題/領域番号 |
23245015
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
喜多村 昇 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50134838)
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研究分担者 |
石坂 昌司 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80311520)
作田 絵里 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80554378)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 機器分析 / 顕微計測 / 単一微粒子 |
研究概要 |
単一エアロゾル化学:マイクロメートルサイズのエアロゾル水滴の化学は大気化学や環境科学とも関連して重要な研究課題である。本年度においては、温度・湿度制御下におけるマイクロメートルサイズの単一エアロゾル水滴のレーザー捕捉・顕微ラマン計測法を確立し、エアロゾル水滴の凝結過程の詳細を明らかにした。レーザー捕捉法を用いて硫酸アンモニウムを含む微小水滴を空中の一点に非接触で静止させ、水滴を冷却することによって-60 ℃付近で過冷却微小水滴が凝固する様子をリアルタイムで観測することに成功した。この微粒子が氷であるのかどうかを確認するためにラマンスペクトルを測定したところ、バルクの氷と同様に3150 cm-1にピークが存在したことから過冷却水滴が凝固し、氷晶を形成することを確認することができた。また,氷晶が成長し雪の結晶のような形態へと変化する様子を観測することにも成功した。 単一コロイド化学:単一陽イオン交換樹脂中におけるローダミンB(RB)カチオンやマラカイトグリーン(MG)カチオンの樹脂内拡散定数は樹脂/溶液界面に発生するDonnan膜電位に大きく依存することを見出している。イオン交換膜中におけるイオン交換反応に対するDonnan膜電位依存性の研究は実験的・理論的に盛んに行われてきたが、単一イオン交換樹脂レベルでの研究・知見は極めて少ない。本年度においては、単一微粒子のレーザー捕捉・顕微分光法に基づき、種々の条件下におけるイオンの拡散定数の直接測定を試みた。その結果、イオンの樹脂内拡散過程に対するDonnan膜電位依存性が樹脂周囲の溶液中のNaClやKCl濃度依存性として観測されるとともに、その濃度依存性をDonnan膜電位を与える式を用いて説明可能であることを明らかにすることができた。単一樹脂レベルにおける膜電位依存性の実験例としては初めての結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単一エアロゾル化学:単一エアロゾル水滴の凝結過程に対する溶質濃度依存性については、これまで多くの報告がありながら、その実験データは大きくばらつき、信頼性が得られていなかった。そのような中で、本研究において温度・湿度制御下における単一エアロゾル水滴のレーザー捕捉・顕微ラマン分光法や水滴サイズの精密決定法を確立することにより、単一エアロゾル水滴の過冷却過程ならびに凝結温度に対する溶質(硫酸アンモニウム)濃度依存性を高精度で明らかにすることができたことは高く評価できる結果であると判断している。また、凝結後の水の結晶成長過程についても直接観測することが可能となり、大気中における降雨・降雪過程の実験室モデルにつなげることが可能となったことは研究の大きな進展である。さらに、単一エアロゾル水滴に対するガス拡散・溶解過程の研究についても実験が進んでおり、最終年度の研究に繋がる結果が得られつつあることも大きな研究の進展である。 単一コロイド化学:イオン交換過程に対するDonnan膜電位依存性については、イオン交換膜を対象として多くの研究が行われてきたが、マイクロメートルレベルの単一イオン交換樹脂についての研究は皆無であった。そのような中で、単一微粒子のレーザー捕捉・顕微分光法ならびに樹脂周囲の溶液のpHあるいはpNa、pK値の経時変化の直接測定を行うことにより、イオンの樹脂内拡散に対するDonnan膜伝依存性を初めて実験的に明らかにすることができた。特に、Donnan膜電位を与える式によってイオンの樹脂内拡散定数のイオン濃度依存性(HCl、NaCl、KCl)を定量的に説明可能であるとの知見を得ることができたことは大きな進展である。さらに、最終年度の実験に繋がる共焦点蛍光顕微鏡を用いた実験にも進展があり、今後、更なる詳細な研究へと発展させることが可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
単一エアロゾル化学:エアロゾル水滴の過冷却・凝結過程の更に詳細な研究を進める一方、NOxやSOxガスの溶解過程の研究についても積極的に取り組む。これまでの研究において、室温付近における単一微小エアロゾル水滴に対するNOxやSOxガスの溶解は極めて速く、そのダイナミクスを明らかにするには実験条件的に難しいことが明らかになっている。そこで、H24年度までに確立した低温条件におけるガス溶解過程の実験を行い、そのダイナミクスを明らかにすることを試みる。また、空気中における光誘起水滴形成過程のレーザー捕捉・顕微分光法による研究についても精力的に取り組む。以上の研究を通して大気化学や大気環境科学に対しても貢献しえる研究へと発展させ、研究を取りまとめる予定である。 単一コロイド化学:単一陽イオン交換樹脂中におけるRB蛍光のMG等による無蛍光性陽イオン消光剤による励起エネルギー移動消光法に基づくイオンの樹脂内拡散定数を規定する要因について、Donnan膜依存性を含めた更なる研究を進める。特に、イオンの樹脂内拡散定数に対するDonnan膜電位依存性には、イオン交換樹脂のサイズ依存性が現れ、樹脂サイズが小さいほど、拡散定数に対するDonnan膜電位依存性は大きくなるはずである。これを明らかにする研究を試みる。更に、共焦点蛍光顕微鏡によるRB等の蛍光色素イオンの3次元蛍光イメージング法により、励起エネルギー移動消光法では明らかにすることが出来ない、樹脂内のイオン拡散過程の詳細を明らかにする研究を推進する。 以上の研究を通し、単一エアロゾルおよびコロイド微粒子が関わるマイクロ分析化学の研究を総括し、本研究課題の目的を達する。
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