研究課題/領域番号 |
23245031
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
高田 十志和 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (40179445)
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研究分担者 |
中薗 和子 東京工業大学, 男女共同参画推進センター, 助教 (30467021)
打田 聖 東京工業大学, 理工学研究科, 講師 (70343168)
曽川 洋光 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (90709297)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ロタキサン / 分子モーター / 運動性材料 / C2キラルユニット / ポリロタキサン / らせん高分子 |
研究実績の概要 |
生体系に普通にみられる”分子を一方向に移動・回転する「分子モーター」”を人工系で可能にするという化学における夢の実現に向け、本研究では、ロタキサンをらせん状に集積した微小管状高分子を創成し、ロタキサンの微細な運動ベクトルの効果的な増幅法の確立を目指し、これまでに微小管状高分子の構築法法の確立とモーター素子となるロタキサン部位の簡便なスイッチ機構の構築および集積化を達成している。本年度は主に高分子に対し、モーター素子となるロタキサン構造を限定的に導入する反応および合成法の開発を行った。具体的には1)高分子をロタキサン結合で精密に連結したロタキサン連結高分子の合成法およびトポロジー変換系の構築、2)サイズ相補性置換基を利用したロタキサン構造の導入率や分解特性を制御したポリロタキサンおよびロタキサン架橋剤の開発、3)液晶エラストマーへのロタキサン構造の導入検討、4)アンビデント反応剤の開発と高分子反応特性の精査である。 1)では高分子中に精密にロタキサン構造を導入するためにロタキサン型重合開始剤を開発した。これを用いてリビング重合を行い、高分子末端に精確にロタキサン構造を導入することに成功した。また、2)では塩基や特定のイオン刺激により分解するサイズ相補性ロタキサン型架橋剤を開発し、ビニルモノマーの光重合反応系に添加して架橋ポリマーを得た。得られた架橋ポリマーは安定でありながら、塩基やフッ化物イオン存在下では速やかに解架橋し、高選択的に高分子中のロタキサン構造を除去する方法を確立した。3)では液晶エラストマーへのロタキサン構造の導入と液晶場への影響を明らかにし、4)では無触媒・無溶媒で種々の不飽和結合と反応するニトリルオキシド反応剤にケテン前駆体であるメルドラム酸誘導体を導入し、様々な機能性分子を簡便に集積するアンビデント反応剤を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたチオインジゴの光異性化に伴う反転を利用した剛直ならせん状-ジグザグ平面構造の変換が可能な微小管状高分子の検討は、合成上の問題により十分に進展させることができなかったが、ロタキサン構造で高分子を連結したロタキサン連結型高分子の合成においては大きく進展した。ロタキサン構造で連結することにより、線状ポリマーを分岐ポリマーへと高分子トポロジーを変換できることを示し、ヘテロな高分子鎖を連結すれば、トポロジー変換が可能なブロックポリマーを創製できることを示した。また、液晶エラストマーへのロタキサン構造の導入も種々条件を検討した結果、重合系へロタキサン構造を添加することで適切にロタキサン構造を導入する方法を見出すことができた。さらに熱に応答してロタキサン構造が可動になる分子スイッチ機能が液晶場へ与える効果についても、初期的な知見を得ることに成功した。一方で、高分子へとロタキサン構造を導入したポリマーにおいて構造解析を行った結果、そのロタキサン構造に由来する特徴的な熱的物性が示唆された。研究遂行上この現象の本質を見極めることが重要であるため、研究計画の見直しを行い、ロタキサン含有高分子のより詳細な熱的物性測定と解析を行った。その結果、ロタキサン構造の運動性と高分子の結晶性の関連について、一定の傾向を見極めることができた。 上述に加え、サイズ相補性ロタキサンはこれまでクラウンエーテル型のロタキサンで検討してきたが、シクロデキストリンにおいてもサイズ相補性の低分子ロタキサンの合成法の確立、主鎖型ポリロタキサンにおけるサイズ相補性を利用した被覆率制御法の開発など、分子設計や合成面において新たな知見を多く得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本年度の研究成果を基にして、1)分子モーターの創製およびその特性評価:これまでの研究で確立した2点連結法による剛直らせん高分子の合成の応用として、光照射による1点連結-2点連結スイッチを行って来た。今後はこの刺激応答スイッチを多様化すべく、酸化還元による1点連結-2点連結スイッチを行う。酸化還元は化学反応および電気化学の2つの手法を試みる。このような酸化還元場によってコンフォメーションに方向性を与え、剛直らせん状へと可逆的に導くことで、分子モーターの基本動作である伸縮系の応用へと展開する。2)人工分子モーターと有機・無機材料との複合化による運動性マテリアルの創製:微小管状高分子とロタキサンの合理的なハイブリッド化法を探索する。すでに側鎖にロタキサン構造を有する動的らせん高分子を合成し、側鎖ロタキサンの微細な運動によって高分子主鎖が大きく形を変え、らせん構造を形成したりランダムな構造を形成したりするハイブリッド系を報告している。さらにロタキサン素子の微小変位をMajority則やSergeants-and-Soldiers則の適用により増幅して、さらに微小管高分子の構造変換へと効果的に連動させる系を構築する。3)スイッチ可能な微小管状高分子の内孔の応用と制御:1)で合成する微小管状高分子の内孔は、周囲を不斉場で囲まれたナノ空間である。そのサイズや不斉の大きさにより選択的包接場としての利用が期待される。そこで金属イオンやキラルアンモニウムイオンに対する認識の選択性や、認識情報を視覚的に増幅するような呈色や蛍光の変化が発現するような分子設計を行い、検討する。
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