研究課題/領域番号 |
23245035
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
成田 吉徳 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (00108979)
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研究分担者 |
太田 雄大 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (70509950)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 人工光合成 / 水分解 / 化学エネルギー変換 / 可視光励起 |
研究概要 |
・長波長領域まで吸収可能な色素利用による人工光合成系構築 新たにリン酸基を有するビピリジン(2,2’-ビピリジン-4,4’-ジリン酸)を配位子としたN3型ルテニウム錯体(p-N3と略称)を色素として用いて、リン酸アンカー基を有するマンガンポルフィリン二量体を水分解触媒として酸化チタンナノ粒子を固定した導電性透明電極に共修飾した。この電極を、バイアス電位を掛けず自立した系で各種pH水溶液中で光電流を観測し最適な光応答陽極の作製を行った。修飾の際に用いる色素と水分解触媒比は8:1、水溶液pH = 5.68の場合、最も大きな光電流が観測された。また、マンガンポルフィリン二量体水分解触媒を修飾した場合と未修飾の系を比較すると、得られた光電流は約1.4倍の差が見られ、水分解分子触媒が有効に作用していることを示した。次に、可視光域の単色光照射により観測される光電流より量子収率(Incident Photochemical Conversion Efficiency: IPCE)を求めると、400 nmで4.2%、470 nmで約2.9%と比較的大きな価が得られた。この価はこれまで報告されている無機半導体を用いた場合に報告されている5-6% @420 nmと比較して遜色はなかった。また、p-N3色素を用いると最大波長670 nm光照射によっても光電流が観測された。これは、p-N3色素の吸収波長域とよく一致しており、長波長光利用に向けての大きな手掛りが得られた。光電流測定と並行して光照射により生成した酸素・水素の定量を行った。その結果、酸素・水素は照射時間に依らずモル比1:2で生成し、電流効率は93%となった。この様に、光電流より得られた電気量と水分解による生成ガス量が良い一致をしていることは、水分解が適切に進行していることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で行ったように、酸化チタンナノ粒子固定電極に、色素と水分解触媒をランダムに修飾する方法を用いても、バイアス電位を一切掛けることなく自立した光反応系としてIPCE = 約3%が実現でき、その光電流により生じた電気量に応じて、高いクーロン効率での水分解と酸素・水素発生が達成できたことは特筆に値する。しかも、光応答電流は670 nm光においても観測されたことから、更に色素の波長域を長波長側に伸延の可能性が考えられ、本方法の更なる展開により、利用可能波長域の長波長化と各波長での水分解-光電流生成効率の向上を併せることで最終目標である太陽光エネルギー利用効率の向上への足掛かりができた。併せて研究の方向性が適切であることも実証でき、今後の検討の方向が確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
1.本光反応セルを用いた光電流の観測において、光照射時には大きな光電流が観測されるが、光照射を継続すると急速に1/5程度に低下することが分かった。この初期電流値を維持できればIPCE ≈ 15%と良好な効率を持つ人工光合成系が構築できる。この大きな電流値変化の一因として、電荷分離後の酸化チタン(電子)と酸化体色素(正孔)間での電荷再結合が考えられた。そこで次の2方法により、電荷分離後の電荷再結合の抑制と、生成した正孔の迅速な水の酸化触媒への移動に注力する。 前者は、ルテニウム錯体配位子のアンカー基と芳香環の間にメチレン基の導入などにより電荷再結合の抑制を図ることにより解決を目指す。また、後者の課題は色素―触媒二元錯体を用いることにより、色素と触媒間の円滑な正孔移動を促進できるように進める。 2.酸化チタンナノ粒子あるいは表面ナノ加工した多孔体表面を持つチタン電極 微少ではあるが、長波長域での光電流が観測されたことより、長波長域での色素の吸光度の低さを補うために、酸化チタン粒子層を厚くし、長波長域の光吸収量を増大させる必要がある。しかし、色素増感太陽電池で用いられている、粒子径が20 nm程度の酸化チタンナノ粒子層の厚さを増大するだけでは、電荷分離後の電子拡散距離(約10 μm程度)の限界と競合し、この厚さを超えて層厚の増大は意味を成さない。そこで、表面ナノ加工した多孔体表面を持つチタン電極を用いて、電子拡散距離と色素修飾表面積の増大を目指す。
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