研究課題
23年度では、改良tert-Boc法を見出したが、改良の余地があった。24年度では用いる保護基などを検討し、糖鎖が存在していても問題なく利用できかつ危険なフッ化水素を用いない安全な改良Boc法を確立した。大腸菌で発現したペプチドのC末端を化学的にチオエステル化する反応を検討した。発現したペプチドにpeptide-X-Gly-Cys(Xは任意のアミノ酸)という配列を入れておけば、酸性条件下、アルキルチオール存在下でCysの切断が起こりpeptide-X-Gly-thioesterとなることが報告されていた。しかし、この方法ではグリシンのみしかチオエステル化することができなかった。そこで、このGlyを選択的に脱離させながらpeptide-X-thioesterとする反応を見出した。現在、アミノ酸が100残基を越えるペプチドを対象にこのチオエステル化を検討している。鶏卵から単離した2分枝複合型糖鎖を選択的に部分保護をおこない、天然型の3分枝、4分枝複合型糖鎖を化学的に合成する方法を検討した。その結果、2分枝複合型糖鎖に4カ所ベンジリデン基を導入後、残りの全ての水酸基をアセチル化し、そして選択的酸加水分解により、3分枝、4分枝を合成するのに都合のよい位置の水酸基のみ遊離にできることが判明した。そしてそこにラクトサミン誘導体をグルコシル化したところ天然の3分枝複合型糖鎖を得ることに成功した。全ての合成中間体、ならびに最終生成物はNMRを用いて全ての1H, 13Cならびに結合様式をHMBCにより完全解析し、目的物が確かに得られたことを確認した。オルガネラに導入する蛍光標識糖タンパク質ケモカイン(アミノ酸が70残基程度)の合成やシアル酸結合タンパク、シグレック7、抗体のFc部位のモノマーに相当する糖ペプチドの合成に成功した。
2: おおむね順調に進展している
糖タンパク質合成に必要な素反応であるBoc法をもちいたペプチドチオエステルの合成が完了した。そしてこれを用いることで、Fmoc法よりも容易にタンパク質、糖タンパク質合成に必要なチオエステルが大量に合成できるようになった。そしてこの手法により、これまでにアミノ酸166個からなら天然型の糖鎖化エリスロポエチン2種類、シアル酸結合タンパク質シグレック7、抗体のFc部位セグメント、オルガネラに導入する蛍光標識糖タンパク質、そして、3分枝天然型糖鎖の合成に成功した。これらのことから研究は予定どおり予定通りに進んでいるといえる。
これまで、確立した方法を利用して合成した糖タンパク質の構造解析、分枝数が3つ、ならびに4つの天然型糖鎖の調製とそれらをもつ糖タンパク質の合成研究をおこなう。また、成熟型ではない糖鎖をもつ蛍光糖タンパク質を合成し、細胞内から単離したゴルジ装置に導入し、糖タンパク質生合成経路でどのように糖鎖が改変されていくか追跡することで糖鎖の機能、役割を理解することを試みる。
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