申請者は有機合成化学を基盤に有機半導体材料の開発と有機薄膜デバイスへの応用を行ってきており,この中から「従来の枠に囚われない有機半導体骨格」の開発の重要性を強く認識してきた.本研究では,有望な新規骨格はもちろんのこと,これまでに報告例はあるものの材料として取り上げられていない骨格,または,適当な合成法がないためそのポテンシャルを十分に精査できていない半導体骨格(未踏有機半導体骨格)に焦点を当て,それらの設計・合成・応用を行うことを目的とする. 前年度までに当初計画した未踏半導体骨格の合成の可否を精査し,多くの骨格を合成しただけでなく,当初想定していなかった新たな骨格である電子欠損性を有するナフトビスチアジアゾール(NTz),チエノチオフェンジオン(TTD),さらには,ナフトジチオフェンジイミド(NDTI)などを開発しており,今年度はこれらの骨格を半導体ポリマーに導入し,得られたポリマーの電子構造の解明とデバイスへの応用を試みた. その結果,TTDを含むポリマーを有機トランジスタに応用したところ,p型または両極性の高移動度トランジスタを与えることが明らかとなり,TTDが有用な骨格であることが明らかとなった.さらに,NDTIを用いることで,両極性ポリマーのみならず,従来ほとんど報告例の無いn型の単極性ポリマーも得られることが明らかとなった.また,塗布により作製したトランジスタの移動度は,n型単極,両極性のいずれにおいても0.1cm2/Vsを超えたこと,さらに,他のp型ポリマーと組み合わせた全ポリマー型の太陽電池へも展開できることが明らかとなり,NDTIが多くの目的に対し非常に有用な骨格であることを実験的に明らかにした.加えて,NTz系ポリマーを用いた有機薄膜太陽電池において,9%を超える光電変換効率を達成することが出来ており,研究は当初の予想以上に大きく進展した.
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