研究概要 |
本研究では氷結晶をモデル材料に選び,融点近傍で様々な結晶材料表面で観察され,結晶の表面特性を支配する表面融解現象の解明を目指す.本年度には,下記の2点について研究・開発を行った. 1.二種類の疑似液体層の熱力学的安定性の測定 窒素ガス・過飽和水蒸気中で,氷結晶をAgI基板結晶上にヘテロエピタキシャル成長させた.そして,過飽和を保ったまま,氷結晶の成長温度を増大させ,2種類の疑似液体層の生成温度を調べた.その結果,実験が異なると2つの疑似液体層の生成温度は少しづつ異なったが,同じ実験では常に薄液状層(β層)がバルク状液滴(α相)よりも高温で生成することが確認できた.氷結晶表面とより強い相互作用を持ち薄い層状をなすβ層が,氷表面との相互作用がより小さくバルクの水(液体)に近い形状を示すα相よりも高温で生成することは,通常の熱力学的安定性の議論では説明できない.この矛盾を解決するには,ラマン分光などによる分子運動のデータが必須となる. 2.顕微ラマン光学系の作製と立ち上げ 厚さがわずか数nm程度しか無いβ層からラマン分光シグナルを得るためには,波数分解能等よりも明るさが分光器の最も重要なファクターとなる.そのため,分光器にはツェルニターナ型の1段グレーティングを,そしてセンサーには電子冷却型CCDを有するシステムを作製し,現有のレーザー共焦点微分干渉顕微鏡とシングルモード光ファイバーで接続した.これにより,レーザー共焦点微分干渉顕微鏡で観察している視野のうち,任意の領域をラマン分光できるシステムが立ち上がった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初,平成23年度に予定していた,共存する気体が表面融解に及ぼす影響について,研究を実行することができなかった.疑似液体層の熱力学的安定性の測定に予想外の時間がかかったためである.そのため,H24年度には,まずこの積み残した課題から取りかかりたい.
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今後の研究の推進方策 |
H24年度より,博士研究員として,京都大学で学位を取得した麻川明俊氏に参加いただく.そして,まずH23年度に行う予定であった,共存する気体が表面融解に及ぼす影響について研究を進める.また,H23年度で構築した超高感度ラマン顕微システムを用いて,疑似液体層中での水分子の運動状態の解析に挑む.
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