研究概要 |
本研究では,GaAs/AlGaAs系半導体ヘテロ構造を中心に,(1)電気的・光学的にスピン伝導・スピン分極状態を制御可能な半導体デバイスの設計・作製,(2)半導体への高効率スピン注入とスピンダイナミクスの制御,(3)量子ナノデバイスにおけるスピン分極の実証とスピン依存伝導のイメージング実現,を目標とし,GaAs/AlGaAs系半導体ヘテロ構造をベースとする強磁性体・半導体ハイブリッド構造の作製技術の確立と,そこにおけるスピン注入およびスピンダイナミクス,およびスピン・軌道相互作用によるスピン制御を実験的に解明するとともに,新しい機能の実現とその応用への展開を目的とする. 平成23年度は,非磁性半導体n^+-GaAs/n-GaAs基板上に,Ru(5nm)/Ta(5nm)/CoFe(3nm)/MgO(1nm)の金属・絶縁体多層膜構造を作製し,これを3端子素子に加工してスピン注入・スピン蓄積を電気的(Hanle効果)および光学的(顕微Kerr回転測定)に実証した.電気的検出では,素子面直方向の磁場掃引により典型的なHanle効果を示唆する電圧変化を観測した.その半値幅よりスピン緩和時間τは165ps程度と見積もられた.また,顕微Kerr回転測定の結果,素子面直方向の磁場B_z=±2.0Tの条件下においてKerr回転信号の空間分布を観測した.これらはスピン注入によりCoFe電極直下のn-GaAs中にスピン蓄積が生じ,そのスピンがn^--GaAs層中を拡散する様子を示している.Kerr回転信号の空間減衰の様子から.スピンが拡散する距離は電流を流している側でλ=41.4μm,反対側でλ=6.7μm程度と見積もられた.これは,電流を流している側では拡散するスピンが電界の影響を受けドリフトも伴うため,スピンが緩和するまでの距離が延長されたと考えられる.電界を印加していない側におけるスピンが拡散した距離から,そのスピン緩和時間τは18ns程度と見積もられた.光学測定から得られたスピン緩和時間は電気測定のそれと比較して大きい値が得られたが.これは電気測定時は界面あるいはn^+-GaAs層のスピン緩和を測定しているためと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は新規に購入した設備を組み上げて金属/絶縁体積層構造を成膜するスパッタ装置を立ち上げた.また,従来から行われている面内磁化容易軸を有するCoFeについて金属/絶縁体/半導体トンネル磁気接合を作製し,スピン注入・蓄積の電気的・光学的測定を行い,これらを相補的に行うことで多くの知見が得られることを実証した.以上から,平成23年度はほぼ順調に進展したと判定した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,研究代表者が東北大学より筑波大学へ異動したため,移設に伴う設備の再立ち上げが必要である.また,これまで東北大学で一貫して試料作製~評価を行っていたのが,筑波大学でも新たに測定系を立ち上げることから共同研究を行う必要性が生じた.よって,平成24年度より東北大学電気通信研究所の山ノ内路彦助教に分担者として本研究課題に参画してもらい,円滑な研究の推進を図る.
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