研究課題/領域番号 |
23246002
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大野 裕三 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00282012)
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研究分担者 |
山ノ内 路彦 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (40590899)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2014-03-31
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キーワード | スピン注入 / トンネル磁気接合 / スピントロニクス / GaAs / 顕微カー回転測定 |
研究概要 |
電気的スピン注入はスピンデバイスの創生やデバイスの特性向上に対し,重要な技術基盤の一つである.特に光学デバイスへの活用が期待されておりVCSELsの特性向上が報告されている.このようなデバイスには量子井戸方向のスピン偏極電子を半導体中に生成する面直スピンが望まれる.しかし,これまでの面直スピン注入の報告では面内スピン注入程の効率は得られておらず,高効率なスピン注入を可能とする材料・構造が求められる.そこで本研究では,CoFeB/MgO/GaAsにおける面直スピン注入を行った.GaAs(001)基板上にMBE法を用いてGaAs(200 nm)/[AlAs(3 nm)/GaAs(3 nm)]×10周期/GaAs(200 nm)/n+-GaAs(2 μm : 2×1016cm^-3)/n-GaAs(15 nm : 1×1019cm^-3)を成長した.250 μm×100 μmのメサの両端にAuGeオーミック電極(電極サイズ : 20 μm×90μm)を作製した.また,チャネル中央にはマグネトロンスパッタ法により,MgO(1.5 nm)/CoFeB(1.3 nm)/Ta(5 nm)/Ru(5 nm),MgO(1.2 nm)/CoFeB(1.6 nm)/Ta(5 nm)/Ru(5 nm)を製膜した(電極サイズ: 10 μm×90μm).CoFeB/MgO構造がGaAs上に置いても面直磁化を発現することを確認した.この構造を用いた面直スピン注入の電気的検出では,両試料において検出電圧の外部磁場依存性を観測した.また,光学的検出では試料1のみKerr回転信号を観測した.そのKerr回転信号も緩和時間の評価と外部磁場依存性の評価間に矛盾があり,面直スピン注入の実証には至らなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CoFeB/MgO構造がGaAs上に置いても面直磁化を発現することを確認した.この構造を用いた面直スピン注入の電気的検出では,検出電圧の外部磁場依存性を観測した.これはスピン注入・スピン蓄積を示唆する結果であるが,光学的には零磁場での面直スピンの注入・蓄積を実証するデータが得られなかった.特に,非磁性のコントロールサンプルで地場中での顕微カー回転測定でも信号が観測され,評価手法を見直す必要が生じた. 得られた信号が試料に依存することから特に接合状態がスピン注入の結果に大きく関係することが考えられる.今回の結果の試料間の相違点及びその接合状況を考察すると同時に,より系統的に半導体構造,MgO/CoFeB接合の構造パラメータを変化させてサンプルを作製し測定データを蓄積してスピン注入・スピン蓄積を電気的・光学的に実証することが今後の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に導入した金属・絶縁体スパッタ装置を用い,さまざまな強磁性体/絶縁体/半導体接合を作製する.現在進行中のCoFeB/MgO/n-GaAs接合では,垂直スピンの電気的注入を磁気輸送測定および顕微Kerr測定で実証する.さらに(110)GaAs上に強磁性体/絶縁体トンネル磁気接合構造を作製しその成膜条件の最適化を図る.半導体との界面の構造解析や電流・電圧特性の評価を通して良好な界面/接合を作製する条件を探索する.本研究項目については,トンネル磁気抵抗(TMR)素子作製用スパッタ装置を使った予備実験を行い,良好な界面が得られているが,光学的にスピン注入を実証した結果は得られていない.強磁性/絶縁体接合としては,垂直磁気異方性を有するCoFe/MgO接合が有望であると考えられ,これを半導体上に形成することを目標とする.
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