研究課題/領域番号 |
23246012
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松尾 二郎 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40263123)
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研究分担者 |
瀬木 利夫 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (00402975)
青木 学聡 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (90402974)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | SIMS / クラスター / イオン / 分析 / バイオ / 高分子 |
研究概要 |
巨大クラスターは数千と多数の原子分子からなるため数keVに加速しても運動エネルギーがそれぞれの原子に分配され、数eVの低エネルギーイオンビームと同じ速度を持つ。これにより低損傷エッチングを実現でき、ポリマーや生体高分子などの機能性有機材料のの深さ方向分析が可能となる。すでに機能性有機材料として実用化されている有機半導体の多層膜の深さ分析に成功しており、その有用性を示してきた。 さらに、多くの材料の深さ分析を行い、これまで有機物の深さ分析に用いられてきたC60イオンなどと比較して、ダメージが少ない、エッチング時の表面荒れが抑えられる、スパッタ率の変動がないなど優れた特徴を有していることを明らかにした。PMMAやPCのポリマーの表面にクラスターを照射し表面に残るダメージを光電子分光法やエリプソメーターを使って調べたところ、ダメージ層は1nm以下と極めて薄くC60のようにポリマー組成比の変化は見られなかった。また、光電子スペクトルを詳細に調べたところ、スパッタリングに用いるクラスターイオンのサイズ分布やエネルギーなどの加工条件を最適化することにより、化学結合状態(ケミカルシフト)も照射前後でほとんど変化させることなくエッチングできることを示した。この結果は、クラスタービームを照射してエッチング加工した表面は光電子分光法でも状態変化が見られず、クラスターイオンを、2次イオン質量分析法のプローブとしてだけでなく、光電子分光法のエッチングビームとしても有用に利用できることを示している。機能性有機材料の深さ方向や埋もれた界面などの化学結合状態を計測できる新しい評価法の基礎を確立した。光電子分光装置を販売している主要なメーカーからArクラスターイオン銃を搭載することがアナウンスされており、有機物の深さ分析を実現できる新しい手法として活用が期待されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
多くの機能性有機材料について、巨大クラスターイオンの持つ低ダメージ性については明らかにすることができた。また、表面に残るダメージについて、イオンの加速エネルギーやクラスターサイズ依存性を明らかにすることもできた。これらの研究により低損傷エッチングに必要な要件を明確化することができた。1000以上のクラスターサイズを用いることで10keV以下のビームエネルギーでも多くの有機材料に対し十分低ダメージであることが、明らかになり、これまでのクラスター生成法やイオン化法で対応できることが分かった。れらの成果は当初予想していたより早く達成することができ、多くの論文発表に繋がった。 これらの要素技術を使った市販装置も開発され実用化に成功したが、更に応用分野を広げていくためには解決しなければならない問題も多い。ダメージ制御が予想より早く完成したので、これらの課題への取り組みが早めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
低ダメージエッチングが可能となり深さ方向分析に最も適したビームであることは明らかになったが、さらに多くの分野に使っていくためには多くのことを検討する必要がある。ビーム強度の増大、ビーム径の縮小、更にはArだけでなく他の分子からなるクラスター種の生成などがこれからの大きな課題としてクローズアップされてきた。今後これらの課題解決に向けた取り組みを本格化させることが必要になり、ガス供給法やビーム収束カラムなど大幅な見直しが必要になるが、そのために必要な予備実験を開始した。
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