研究課題/領域番号 |
23246016
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
笹木 敬司 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (00183822)
|
キーワード | 微小球共振器 / 顕微分光イメージング / 金属ナノ構造体 / 光局在 / 光反応増強 |
研究概要 |
本研究では、もつれ合い光子を金属ナノギャップ構造に照射して時間もつれ合い局在プラズモンを誘起する(光子の時空間的極限操作)という独自のアイデアにより、超高効率な2光子反応プロセスを世界に先駆けて実現する。これまで高強度励起が常識であった2光子重合反応を、極微弱な(数十フェムトワット)CW インコヒーレント光で誘起することを可能とする。また、光子数もつれ合い状態を併せて利用し、回折限界を打ち破る超微細パターンを2光子重合により形成する初の実験を実現する。本研究は、超微細光加工、超高密度光記録や高効率な光反応・光エネルギー変換システムの実現に向けてブレークスルーとなりうる新しい展開が期待できる。本年度は、金ナノ構造体における局在プラズモン場について、形状、サイズ、厚さ、ギャップ距離等をパラメータとして3次元電磁界分布の数値解析を行い、大きな光アンテナ効果で微小な空間に光子を局在させ高い電場増強効果が発現する構造を設計した。これまで、四角形や三角形、ロッド形の構造が用いられてきたが、もつれ合い光子励起局在プラズモン場に適した構造体をシミュレーション解析から探索した。また、非線形光学結晶によるパラメトリック下方変換プロセスについて、チューニングカーブフィルタリング法により空間伝搬特性を解析し、局在プラズモン励起にマッチングするスペクトル帯域を考慮しながら、もつれ合い光子を効率的に金属ナノ構造に集光するための光学系を設計した。さらに、非線形光学結晶や集光レンズの波長分散から光子時間広がりを計算し、2光子吸収レートを量子論的に見積もって実験条件の最適化を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、紫外半導体レーザーと非線形光学結晶を用いて高純度のもつれ合い局在プラズモンを発生するシステムの試作を行い、さらに2光子重合プロセスの予備的実験を実施する計画であったが、システムの重要な構成要素である散乱型近接場顕微鏡(既存)が故障して修理を行ったため、研究の進捗に遅延が生じた。その間、前述の理論・シミュレーション解析の研究を積極的に進展させるとともに、2次波長分散の小さい非球面レンズ系や光子時間広がりを抑制した集光光学システムの設計を行うことができた。結果としては、実験に必要な諸条件を詳細に見積もることができ、もつれ合い局在プラズモン発生システムの設計にフィードバックできたことは成果となった。研究計画に変更が生じたが、全体としては着実に進展があったと自己評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、電子線描画装置を用いたリソグラフィー技術により、金ナノギャップ構造体を設計に基づいて製作する。電子科学研究所附属ナノテクノロジー研究センターの設備および技術職員の支援により、国内でも有数の高分解能微細加工技術の実績が既にあるが、本年度導入される最新機種の電子線描画装置により、さらなる解像度の向上を図る予定である。作製した構造体の分光測定や発光測定を行い、数値解析にフィードバックしながら微細加工条件の最適化を図る。一方、紫外半導体レーザーと非線形光学結晶を用いて高純度のもつれ合い光子発生源を開発すると共に、開口数が大きく2次波長分散の小さい非球面レンズ系によって、もつれ合い状態を崩さずに光子時間広がりを抑制した集光光学システムを構築する。また、ニアフィールド顕微鏡および2光子検出システムを組み合わせ、集光スポットにおけるもつれ合い光子密度、もつれ合い状態の空間分布等の観測を実現する。また、金ナノギャップ構造体に重合開始剤を含有したレジストフィルムをコートし、試作したもつれ合い局在プラズモン発生システムを用いて2光子反応プロセスを励起する。試料を化学処理した後、高分解電子顕微鏡で観察する。これにより、「もつれ合い局在プラズモンを用いて超高効率に2光子重合反応を誘起する初の実験」を実現する。もつれ合い光子の密度を変えながら2光子重合反応を定量的に分析し、線形性の確認を行うと共に理論との整合性について考察する。また、光学系の開口数を調整してもつれ合い光子の空間広がりを変化させた場合、分散媒質や分光フィルターを挿入してもつれ合い光子の時間広がりを変化させた場合、さらに、照射光中のもつれ合い光子と古典光子の割合を変化させた場合等の解析を行い、現象が量子効果であることを実証する。
|