研究実績の概要 |
本年度は第一に,hiPS細胞をマイクロ構造の基板上で培養する実験を行って来た. その結果,細胞内骨格が「力場」の影響を受けてその機能をアダプティブに増強することにより,従来のdishや培地上では発現されなかった新たな機能発現することを見いだした. 1.通常の培養皿の培養培地中で培養されるhiPS細胞は通常は平たいColonyを形成するのに対し,Gelatin Nano Fiberを敷きつめた平面上で培養すると,より多能性状態とされるドーム型のコロニーを形成する細胞も出現することを見いだした.これは,初期化された細胞は2種類以上の分化状態の細胞の混合物であるが,平板dishではその形態的な特徴が発揮されないことを示唆している. 2.培養液中に宙づりにされたマイクロな網構造を用いて培養を行うと,メッシュの目の粗さがある程度小さい場合は,hiPS細胞がメッシュ上に単一シートを形成するのに対し,目の粗さを大きくして,メッシュ表面や隣接する細胞との接触が少ないようにすると,trophoblastに分化することを見いだした.これは,周囲の幾何学的構造が制限する隣接細胞との接触関係が,細胞の分化にも影響を与えることを示している. また,チップ上でエレクトロポレーションを行うと同時に電気泳動により外来DNAを核に送達するシステムを開発した.細胞を,孔径2μm程度のオリフィスを持つシート上で付着培養し,両側から電極ではさみ,4V-200msec程度の電圧を印加すると,膜の可逆的破壊が生じ,そこを通して流れる導電電流下の電気泳動によりプラスミドが核に移動する.この方法を用いて,体細胞に4つの山中因子を導入したところ,細胞の初期化ができた.この遺伝子直接送達法は,タイミングを正確に制御して即時に遺伝子を導入できるという特徴があるので,今後の細胞のリプログラミングや分化制御の研究に役立つ物と期待される.
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