研究課題/領域番号 |
23246046
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
平井 慎一 立命館大学, 理工学部, 教授 (90212167)
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研究分担者 |
田中 弘美 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (10268154)
森川 茂廣 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (60220042)
三谷 篤史 札幌市立大学, デザイン学部, 講師 (70388148)
井上 貴浩 岡山県立大学, 情報工学部, 准教授 (60453205)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 軟組織 / 変形 / トライボロジー / モデリング / 接触 / 滑り / ダイナミクス / センサ |
研究概要 |
軟組織の接触に伴う変形と分布力の計測においては,滑りを計測する導電性繊維センサを評価した.繊維センサのパイルの高さや電極の形状が繊維センサの出力にどのように影響するかを調べた.繊維センサは,導電性繊維がパイル状に編まれた構造を有している.滑りにより指先がパイルに接触したり離脱することにより,導電性繊維の抵抗が動的に変化する.この動的な変化から滑りを検出する.パイル高さを1mmと2mm,両端電極とくし型電極を評価した結果,パイル高さ1mmでくし型電極を用いるときが,安定に滑りを検出できることがわかった.また,導電性繊維センサを用いてテクスチャーの識別を試みた.センサ出力の離散ウェーブレット変換から,分散やエントロピー等の特徴量を計算し,特徴量からテクスチャーを識別する手法を用いた. 軟組織のマクロトライボロジーにおいては,人の指先の滑りの力学モデルを構築し,それを繊維センサによる滑り検出に適用した.指先をビーム束モデル,すなわち複数のビームの集まりで表す.指先とテクスチャーの接触面を二次元弾性体と仮定し,接触しているビーム間には,二次元弾性体に起因する弾性力が作用すると仮定する.さらに,繊維センサによる滑り検出においては,個々のビームと個々のパイルに接触が生じ,ビームとパイルに変形が生じ,その後に接触が失われるという過程を考慮し,ダイナミクスモデルを導いた.また,指先の材料の特性をより正確に表すために,ビームを複数のフォークトモデルから成る一般化フォークトモデルで表すことを試みた. マイクロトライボロジーにおいては,テクスチャーの形状記述に確率分布を導入しテクスチャーの表面粗さを表した.このように表面粗さを含む接触に起因する力やモーメントを,並進運動と回転運動の運動方程式に導入することにより,テクスチャー上の物体の運動をシミュレーションすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
滑りを計測する導電性繊維センサに関しては,局所滑りの瞬間の検出のみならず,滑りの速度を検出できる可能性を見い出すなど,予定以上の進展を見ている.これまでに,繊維センサのパイルの高さや電極の形状が繊維センサの出力にどのように影響するかを調べ,くし型電極の優位性を示した.ただし,両端電極では伸び歪み20%を実現できるが,くし型電極では実現できないことがわかった.導電性繊維センサを用いたテクスチャーの識別において,パイル高さ1mmと2mm,滑り速度1.5mm/s,3.0mm/s,6.0mm/sに関して評価したところ,パイル高さ1mm,滑り速度1.5mm/sで最高の識別率86%を得た.さらに,くし型電極を用いて複数点における押しの検出を試み,滑りの速度を計測できる可能性を見い出した. 軟組織のマクロトライボロジーに関しては,順調に推移している.これまでに,人の指先の滑りの力学モデルを構築し,その結果,繊維センサによる滑り検出をモデリングすることができた.滑りが生じているとき指先に生じる局所滑りや圧力分布,摩擦力を評価するために,シミュレーションと実験の結果を比較した.実験においては,人の内部構造を模した人工指を用いた.摩擦力は,10%程度の誤差で評価できることがわかった.人工指の表面に複数のマーカーを付け,それを追跡することにより局所滑りを検出した.指先と表面との接触角度や滑り方向を変えてシミュレーションと実験を行い,局所滑りや圧力分布を評価した.これより,シミュレーションと実験の結果が定性的に一致することを確認した. マイクロトライボロジーに関しては,テクスチャーの製作は順調に推移しているが,実験的な評価が多少遅れている.これまでに,テクスチャー形状の粗さを考慮したシミュレーションを行い,シミュレーションと実験の結果を比較し,双方の結果が定性的に一致することを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
軟組織の接触に伴う変形と分布力の計測においては,滑りを計測する導電性繊維センサにおいて,滑りの速度を計測できる可能性を追求する.一つは,くし型電極を用いて複数点において押し荷重と滑りを検出し,それらの計測結果から滑りの速度を推定する方法である.別の方向として,滑り速度と離散ウェーブレット変換の結果の関係を調べ,その関係から滑り速度を推定する手法が考えられる.今後は,双方の手法を試み,導電性繊維センサにおいて滑りの速度を計測する手法を確立する.また,ビーム束モデルを用いた繊維センサの滑り検出モデルを用いて,滑りの速度を計測する手法を評価する. 軟組織のマクロトライボロジーに関しては,指先がテクスチャー上を滑るときのシミュレーションを,ビーム束モデルを用いて行い,テクスチャー形状が指先の動的な変形に与える影響を解析する.マイクロトライボロジーにおいて製作したテクスチャー上で人工指を滑らせる実験を行い,人工指に生じる振動や作用する力を計測する.これらの計測結果とシミュレーション結果を比較し,ビーム束モデルを評価する. これらの結果から,軟組織のトライボロジーの基盤を確立するとともに,特に触知覚の解析への適用を試みる.
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