研究課題/領域番号 |
23246069
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川原田 洋 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90161380)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | センシングデバイス / バイオデバイス / DNAデバイス / タンパク質チップ |
研究概要 |
アプタマーとして利用する一元物質である核酸の末端をダイヤモンド基板にアミド結合で安定に固定し、活性部位を固定部位から離すことにより標的分子との結合を高め、さらには非特異的吸着を抑制できるようダイヤモンド表面を終端構造することで分子認識の特異性が向上することを試みている。センシングの方法としては蛍光検出法と電界効果トランジスタ(FET)による電位検出法を行い、複数の観点からダイヤモンド表面でのセンシングを検討した。前者はDNAチップ等でセンサー技術として確立されているが、核酸をアプタマーとして基板上に固定し、蛍光検出を系統的に行ったのは本研究が最初である。後者のダイヤモンド上のFETは、DNAの塩基配列検出において有利なことが示されているが、タンパク質検出においては開発途上の技術であった。ナノダイヤモンド薄膜の表面修飾、特に生体分子の固定に重要なカルボキシル基による修飾を行い、ナノダイヤモンド表面に生体分子を固定する技術を確立している。これより、選択性の高いタンパク質の検出を可能とした。アプタマーの結合部位となるHIV Tat ペプチドは、正電荷を有するアルギニン酸が支配的な部位であり、正に帯電する。この部位の影響でHIV Tatタンパク質も正電荷を帯びる。正に帯電したタンパク質が正孔をキャリアとするダイヤモンドSGFETのしきい値電圧に及ぼす影響を検討し、アプタマーにより捕獲されたタンパク質の密度を概算している。測定限界の約10倍の電圧である30mVの負方向へのしきい値電圧シフトは1012 e cm-2の正の面電荷密度に相当し、HIV Tatタンパク質が1011cm-2の面密度でFETのチャネル上に捕捉されることを示している。本研究では、RNAをアプタマーとして利用し、FETによる定量的で信頼性の高いタンパク質の検出を行った最初の例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.局所化学修飾を施したダイヤモンド表面で、アプタマー固定化技術を最適化した。アプタマー固定されたダイヤモンド表面でのアプタマーと標的タンパク質の結合過程ならびに生化学反応過程を詳細に検討した。特に、アプタマーの結合部位となるHIV Tat ペプチドは、正電荷を帯びるアルギニン酸が支配的で、これよりでHIV Tatタンパク質の電荷の総和も正である。正帯電のタンパク質が正孔をキャリアとするダイヤモンドFETのしきい値電圧を正方向にシフトさせ、シフト量からアプタマー捕獲によるタンパク質の密度が定量的に評価された。(達成度 高) 2.抗体に特異的に結合し、しかも抗体機能を失活させない新型アプタマーを探索し、アプタマーによる抗体の配向固定を試み、抗原抗体反応検出を試みた。抗体の非特異吸着が多くなり、検出に至っていない。抗体の直接固定等を考慮する必要がある。(達成度 小) 3.ボロンデルタドープダイヤモンドにて新たな溶液ゲートFETを作製した。このトランジスタの動作安定性は高く、数カ月後も同一の静特性を示す。この原因は、電気伝導性が表面 吸着物質の影響を受けにくく、例えばカルボキシル基終端を行う強い酸化剤でも電気伝導性の変動がほとんどないことである。このカルボキシル基終端は生体分子の固定にとって最も重要な表面改質である。その特徴は、電気的に負電荷であり、負電荷を有する生体分子の非特異吸着の抑制に多大な効果があった。(達成度 高) 4. 標的核酸やアプタマーによる標的タンパク質を検出する微細FETを作製した。流路技術と合体するためにダイヤモンドFETを1次元アレー化し、各チャネルに塩基配列の異なるDNAプローブ3種(相補型、一塩基相違、非相補型)を固定し、FETによる標的DNAの検出に明確な差がでることを確認した。この結果は複数のタンパク質検出の一括処理にも応用可能である。(達成度 高)
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今後の研究の推進方策 |
1. FETによる生体分子による電荷検出機構解明:表面の電荷が負となるカルボキシル基、フッ素終端で化学修飾したダイヤモンド表面でアプタマー固定を行い、FETによる電荷検出の機構解明を行う。表面極性と検出生体分子の極性とFETのしきい値電圧のシフトの関係を詳細に検討する。生体分子の電荷を直接検出しているのか、生体分子の電荷が環境に与える電荷の偏りを検出しているのかを詳細に調査する。これにより、半導体表面での標的核酸や標的タンパク質の検出機構のモデルを提案する。 2.塩基対の相違やヌクレオチドの高感度分析:一塩基違いの僅かなエネルギー差を各塩基対のギブスエネルギーの差において検出する技術に発展させる。即ち、相補的なアデニン(A)-チミン(T)あるいはグアニン(G)-シトシン(C)の組でない塩基の組み合わせ(ミスマッチ)でのギブスエネルギー変化による相違を高感度で検出する。また、ATPをNTP、GTP等の他の3リン酸から識別するアプタマーによる高感度検出等を行う。 3.無感応性チャネルよる差動モード検出:観測系のノイズ、局部的な電位変動に影響されない計測環境を確保するために対抗電極や参照電極の代わりに、無感応チャネルを有するFETを開発し、差動モードにて 検出を行うことで溶液中の局所的なpH等の変動等に耐えられるFET測定技術に発展される。 4.素子の微細化と集積化技術:複数FETの1次元アレー化により、異なる核酸(アプタマー)が固定された微小SGFETセンサアレーを作製する。実時間測定の一括処理への測定技術を開発する。
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