本年は、アデノシン三リン酸(ATP)と特異的に結合するATP結合DNAアプタマーを認識プローブとして用い、ATP検出センサの開発に向けた研究を行った。 「シグナルオフ検出機構を利用したアプタマーセンサ開発」:ATPの検出では、アプタマーがATPと結合した際の蛍光シグナルの減少(シグナルオフ)を検出する。その概略を以下に示す。ATP結合アプタマーと相補的なDNA(1本鎖DNA)をダイヤモンド基板に固定し、蛍光色素Cy5修飾されたATP結合アプタマーのハイブリダイゼーション(プレハイブリダイゼーション)で2本鎖DNAプローブを形成する。このプローブの蛍光を観察する。ATPの添加によって2本鎖プローブが解離し、Cy5修飾されたATP結合アプタマーがATP/アプタマー結合体となり、離脱し、それが蛍光強度の低下として検出される。 「センサの再利用、ATPの検出濃度、特異性」:検出を4回繰り返した結果の再現性は高く、再利用性を確認した。ATPの濃度依存性については、10μM以上であれば確実に検出可能である。ATPと構造の近いUTP、CTP、GTPを等量入れた検出媒体での誤検出率は1/10以下となり、ATPアプタマー特異性の確認を行えた。 「電界効果によるポテンショメトリック検出」:電界効果トランジスタにおいてシグナルオフ法により検出することが可能となった。プレハイブリダイゼーションした2本鎖DNAからATPと結合する1本鎖のDNAアプタマーがディネーチャーされ、固定された1本鎖のDNAが残り、負電荷をもつDNAリン酸の半減したことを示す30-40mVの負電位方向へのゲート電圧シフトを明瞭に再現性良く観測した。 上記、シグナルオフ法はハイブリダイゼーションしたDNAあるはRNAがディネーチャーする過程、つまり2本鎖から1本鎖となることを検出する単純な機構であり、流路のように系が流れる状態で非特異吸着を抑制できる方法であることを、蛍光法と電界効果トランジスタの両面から確認した。
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