研究概要 |
数千,数万の命が奪われる海外の地震の被害調査では,被災地域内の地震記録が皆無であることも少なくなく,人的犠牲・物的被害の大きな代価を払いながらも地震対策やその後の国土保全のための教訓が十分に得られないことがある.したがって地形や地盤に残るありとあらゆる痕跡を見直し,そこに刻まれた情報から将来の地震防災,復興にかかわる教訓を読み解いていくことが求められている.地形に刻まれた地震痕跡から重要な情報を抽出することは,昨今のリモートセンシング技術の発達で決して不可能ではなくなっている.本研究は地震を引き金にまとまった(coherentな)土塊の移動(Lagrangian変位)をリモートセンシングで得られる空間に固定されたEuler座標上の標高変化から抽出する手法を震災の解析や長期にわたる復興に活用することを目的としている。本手法で検出されるLagrangian変位はノイズ除去のための移動平均法のパラメータに大きく影響され,また抽出対象も一体性を保った土塊の動きに限定される.地すべりを扱う場合にはさらに回転の3自由度を考慮した解析手法の改良も必要である.手法の改良と適切なパラメータ設定を行うためには,膨大な計測された実例の解析の積み上げが必要で.その意味で,研究代表者が関わった振興調整費事業によって,異なる7時期の膨大な地形データとオルソ画像,3577か所のボーリングデータ,復興工事資料,数万枚に及ぶ被害写真,そして調査された地下構造を基に推定された地震動など豊富なデータの蓄積されている中越は得難い場所であった.手法の改善もなされそれらの成果は1編の査読論文、1篇の著書の1章としてまとめられ、併せてもう1編の査読論文を投稿準備中である。またパキスタンの活用を踏まえその基礎データをまとめたものを2編の査読論文として発表した。なお平成23年度は、昨年3月11日に発生した東北太平洋沖地震で生じた液状化や斜面災害などの精緻な変形解析に本手法が活用され、これらが関連自治体などの機関に提供されたことも大きな成果である。
|