研究課題/領域番号 |
23246087
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小長井 一男 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (50126471)
|
研究分担者 |
関口 春子 京都大学, 防災研究所, 准教授 (20357320)
竹内 渉 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (50451878)
清田 隆 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70431814)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 地震断層 / 地形変形 / ラグランジアン変位 / 地震防災 / 国土保全 |
研究概要 |
数千,数万の命が奪われる海外の地震の被害調査では,被災地域内の地震記録が皆無であることも少なくなく,人的・物的被害の大きな代価を払いながらも地震対策やその後の国土保全のための教訓が十分に得られないことがある.したがって地形や地盤に刻まれた情報から将来の地震防災,復興にかかわる教訓を読み解いていくことが求められており,これは昨今のリモートセンシング技術の発達で決して不可能ではなくなっている.本研究は地震を引き金にまとまった(coherentな)土塊の移動(Lagrangian変位)をリモートセンシングで得られる空間に固定されたEuler座標上の標高変化から抽出する手法を震災の解析や長期にわたる復興に活用することを目的としている.一昨年の平成23年度は検出されたLagrangian変位のノイズ除去の手法を大きく改善させ,地すべり土塊の回転の3自由度を考慮した解析手法の改良を行ったが,さらに平成24年度は7時期の膨大な地形データとオルソ画像,3577か所のボーリングデータ,復興工事資料,そして調査された地下構造など豊富なデータの蓄積されている中越地域を対象に,浅層地盤とやや深い部分の地盤変位を分離する手法の改良を実施した.この結果地震断層面上でのすべり分布を精度良く求めることが可能になり,それらの成果は1編の査読論文としてまとめられた。この手法の改良は,さらに断層の推定変位から地中内部の応力状態を算定することも可能にした.その結果,中越地震で大きな偏差応力の帯がほぼ4㎞の等しい間隔で平行に現れたこと,ここにトンネルの被害が重なること,さらに地震前にまとめられていた地すべり地形の分布とも極めてよく重なることなどが示された.このことは地震で生じた応力変化が過去にも繰り返し起こっていることを示唆するもので,地域の生活や防災に直接反映できる重要な情報である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
年度当初の予定を大きく上回るスピードで研究成果が達成され,上記概要に示した内容に加え,2005年のパキスタン・カシミール地震の被災地でもInSAR画像から抽出されたLagrangian変位成分から地中内応力の変動を抽出している.その結果は地震で発生した斜面崩壊の分布と極めてよく符合するものであり,本手法がInSAR画像解析結果についても用いることができることを示したものである.さらに2011年3月11日に発生した東日本大震災で液状化した東京湾岸地域の詳細沈下マップも対象地域を浦安から千葉まで広げて作成した.日本全国が地殻変動で大きく変動する中で液状化によって沈下した成分のみを分離抽出するにあたっては,これまでの研究成果が大いに役立っている.これらの成果は査読付論文(掲載:1篇,査読中2編)にまとめられるのみならず,関連自治体や機関にも提供された.
|
今後の研究の推進方策 |
これまで対象としてきた中越(多数の強震記録あり),パキスタン(強震記録なし)は地震記録の有無という観点からは両極端の調査対象である.いずれのケースでも,大まかな地盤構造の推定結果を用いただけで,地震記録に頼らず防災面で重要な情報を抽出できることが示された.InSARや航空レーザーなど手法を問わず用いることができることは,本手法の活用範囲を大きく広げるものであるが,今後は地下構造の推定結果など入手可能なデータの制約がどの程度,結果の信頼性に影響を与えるか検証し,得られた情報の防災・国土保全への反映を目指す.そして本手法で浮かび上がってきた被災地域全域に及ぶ地中応力分布と例えばトンネル等地中構造物の被害箇所との関連にも踏み込んで検討を行い,なにが被害の有無を分けたのかについても解析する.この結果は地域の開発や復興計画の策定,そして国土保全に有用な情報になるものと考える.
|