研究課題/領域番号 |
23246098
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
笠井 和彦 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 教授 (10293060)
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キーワード | 制振構造 / 制振RC構造 / 制振木質構造 / 制振鋼構造 / 鋼材ダンパー / 粘性ダンパー / オイルダンパー / 粘弾性ダンパー |
研究概要 |
研究代表者は、以前は設計地震レベルで架構を弾性に留める制振構造の設計法を提案してきたが、本研究の1年目では、弾性でなく小さな変形から非線形化し易い制振鉄筋コンクリート(RC)構造や、制振木質構造の解析法や設計法の研究を行った。さらに、制振鋼構造における鉄骨架構部分の非線形化に関する詳細な実験も行った。これらを以下に述べる。 制振RC構造の設計:鉄筋コンクリート (RC) 架構を、ひび割れを伴う剛性劣化型架構とモデル化し、ダンパーの最適な配分法を提案した。ダンパーは、速度依存型、変位依存型として粘弾性ダンパー、弾塑性ダンパーを考慮し、設計は時刻歴解析で実証した。これまでの研究代表者が提案した設計法と同様に、架構の剛性劣化・非線形化による等価周期や減衰の評価さえすれば、指定された目標応答を満たす応答制御設計ができることを示した。 制振木質構造の解析:木質制振架構の梁柱部材および接合部のモデル化の方法を提案し、それにより2層制振木質構造の震動台実験結果を再現し、精度の高さを示した。これにより、2層でのダンパーの効率の低下や、接合部の緩みの影響などを、当該分野において初めて再現できた。釘やビスに力が集中するため、それらの木材へのめり込み、そして力の反転によるスリップの発生という局所挙動をふまえ、接合部実験を行いながら、詳細な接合部のモデル化を行ったことが、本解析手法の鍵となった。 鉄骨架構部分の非線形化:制振ダンパーが取り付く架構の梁は、ダンパー力の水平成分である軸力と曲げモーメントを同時に受け、早めの塑性化や局部座屈を伴う非線形化の影響を把握する必要がある。これを、床スラブも含む制振部分架構実験と、梁部材のみの軸力・曲げ載荷実験により検討した。床スラブがあっても鋼梁下フランジ部の歪がさほど増えないのは、合成梁として機能した結果、歪が柱の方に再配分された為であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な架構の非線形性の把握という観点では、本研究1年目として十分な成果が得られたと思う。自己点検による評価では、「(2)おおむね順調に進展している」と言える。なお、2年目でダンパーの極限状態の検討が開始されることを述べておく。研究実績の概要で述べた3項目の達成度を説明する。 制振RC構造の設計:前述した設計法は、粘弾性、弾塑性ダンパーを考慮しており、粘性、オイルダンパーへの拡張は未だである。弾塑性ダンパー対象の設計法は、一般社団法人長寿命建築システム普及推進協議会の作成による「制振装置付長寿命建築物構造設計指針」に採用された。また、その中の17階建て集合住宅の設計例で、詳細な架構のモデル化を行い、3次元解析によって本設計法を検証していただいた。これを17質点系に変換したモデルや、代表者が日中共同研究で用いた中国の建物の7質点系モデルによる設計の検証は、日本建築学会構造系論文集に2編掲載された。 制振木質構造の解析:2層制振木質構造の震動台実験結果を再現し、精度の高さを示した。ただし、住宅規模の建物で寄与が大きいと考えられる外壁・内壁などの非構造材は、それを含んだ実験は過去に行ったものの、解析モデル化がそこまで行き着いていない。また、解析を用いた多くの興味深い検討の基盤ができた状態である。なお、非構造材を含まない2層制振構造の解析は、日本建築学会構造系論文集に1編掲載された。 鉄骨架構部分の非線形化:例えば、合成梁に対する軸力のRC床と鋼梁への配分、それと曲げモーメントの連成、完全・不完全合成の程度の影響、梁せいの高い梁の軸力と曲げによる不安定挙動など、大変有意義な実験データが得られた。あと数体で実験が完了し、解析を用いた検証の基盤がほぼ出来上がった状態である。これらの内容は、2012年日本建築学会大会論文として3編を掲載し、口頭発表も行った。
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今後の研究の推進方策 |
上述の3項目に関連して様々な架構の非線形性をより深く検討していく。また、2年目からダンパーの極限状態の検討を開始する。これらを説明する。 制振RC構造の設計:鉄筋コンクリート (RC) 架構の履歴挙動を模擬した剛性劣化型モデルは典型的なものであるため、質点系のせん断棒モデルとして実務と整合している。しかし、架構とダンパーの接合部の挙動や、梁・柱のバランスにより、全体挙動がどのように変化するかは、架構解析モデルを検討する必要がある。ここの研究は、2年目以降で架構の実験とプログラムFINALを用いた詳細解析により遂行する。 制振木質構造の解析:2層制振木質構造の震動台実験結果で、非構造材を含む試験体の応答を、時刻歴解析で再現する。このために、非構造材のモデル化を構築する。これまでに、単スパン、多スパン架構の強制加振実験、および上記の2層制振木構造の震動台実験があり、かつ非構造材の分担力に関するデータも存在するため、モデル化が可能である。 鉄骨架構部分の非線形化:合成梁が引っ張り・圧縮軸力を受ける場合、正曲げ・負曲げを受ける場合の4組合せに対し、合成梁の剛性・耐力およびRC床と鋼梁の内力分担に関する予測式を構築する。これらを含めた、架構の評価法・解析法を構築する。 ダンパーの極限状態の検討:極限状態におけるダンパーの挙動を多くの実験と解析で把握し、また、高層建築の長周期地震での応答増幅と累積損傷を検討する。大変形実験、高速度実験も行う。ダンパーは、鋼材、粘性、オイル、粘弾性ダンパーの4種である。
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