研究課題/領域番号 |
23246098
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
笠井 和彦 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 教授 (10293060)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 制振構造 / 制振鋼構造 / 制振木質構造 / 制振RC構造 / ダンパー / 極限状態 / 東日本大震災 / 地震観測記録 |
研究概要 |
本研究課題3年目では、2年目の研究を継続する形で研究を行った。すなわち、架構の非線形性を考慮した制振設計、ダンパーの極限性能の把握、東日本大震災における、建物の観測記録の分析である。これらについて以下に述べる。 架構の非線形性を考慮した制振設計:RC骨組へのダンパー接合方法としてRC骨組全体に鋼部材を通したもの、接合部にスタッド付き鋼板を埋め込んだものの2種を提案し、RC門型架構の実験を行った。実験から、ダンパー変形量のロスは,梁の軸変形による影響が支配的であり、梁部材断面中央にダンパー力伝達用の異形鉄筋を通すことで、安定したダンパー変形量を確保できることを示した。 鉄骨制振架構の非線形性の把握:合成梁の挙動は、スラブと鋼梁の界面にずれが生じて平面を保持しないことや、柱スキンプレートによって境界条件が変化し、その評価は困難である。加えて、制振構造の梁には、ダンパーによる梁軸力が生じることと、ガセットプレートによる梁の断面性能の変化で一層複雑になる。これらの要因を再現した解析モデルと評価式を提案し、両者を用いて各要因が合成梁の弾性挙動に与える影響を確認した。 ダンパーの極限性能把握:昨年度に作成した増幅治具を改良し、さらに現実的な条件で実験を行うことにより、ダンパーの極限性能を把握した。実験は昨年度と同様に大変形実験・高速度実験・長時間実験である。またその状態を解析により再現できるように、厳密な解析モデルを作成した。ダンパーの種類は鋼材・粘弾性・粘性・オイルの4種類を対象とした。 地震観測記録の分析:20層免震、29層耐震、43層, 54層制振建物などについて、地震記録から様々な詳細検討を行った。例えば29層建物では、得られた地震観測記録と本研究課題で提案する制振設計法をもとに、効率的に制振効果が得られるダンパーの配置と本数について検討し、制振補強方法を具体的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題3年目として、十分な成果が得られたと考えている。自己点検による評価では「(2)概ね順調に進展している」といえる。以下にその理由について述べる。 架構の非線形性を考慮した設計法の提案については、RC制振架構の実験が終了し、その成果は日本建築学会や地震工学会の大会論文集に2編ずつ掲載されており、かつ口頭発表も行っている。鉄骨制振架構についても初年度に行った実験結果を通して様々な知見が得られており、その成果は日本建築学会の大会論文集に投稿しただけでなく、日本建築学会の構造系論文集に投稿するための準備がほぼ完了した。 ダンパーの極限性能の把握については、4種ダンパーの様々な極限状態の実験が完了した。その実験を再現するための解析モデルも作成しており、その成果は建築学会の大会論文集に掲載されている。また、その研究成果に関連する論文が日本建築学会の構造系論文集に2編掲載された。 地震観測記録の整理については、学術的に重要と思われる建物について記録を詳細に分析し、構造設計者とともに実務を視野に入れた制振設計例を作成することができた。その成果は日本建築学会大会学術講演や日本免震構造協会主催の国際シンポジウムにて多く発表している。 この研究ペースは当初に想定していた範囲内である。また、研究代表者は主に国際シンポジウムや国際セミナーで基調講演・招待講演として発表を計22回行ない、本研究課題による成果を発表しており、1年間の研究成果としては十分なものと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)エネルギー吸収効率の極めて高い木質制振壁を新たに開発し、その強制変形実験とそれをモデル化しおた詳細な解析を行う。木質架構特有の非線形性を考慮した制振設計法を提案し、先に開発した制振壁を使う場合の設計例を具体的に示す。 (2)鋼材・粘弾性・オイル・粘性の4種類のダンパーを対象とし、昨年度までに行った高速度実験、繰り返し変形実験、大変形実験に基づき、ダンパーの極限状態に至る過程の解析モデル化を可能な限り行っており、それを完成する。 (3)上記(2)のモデル化を、実大5層制振建物の挙動を極めて高精度に再現可能なフレームモデルに組み込み、ダンパーの極限状態が建物に与える影響を解析的に把握する。 (4)本研究課題の4年間で得られた知見を総括し、その成果を鉄骨構造、木質構造、鉄筋コンクリート構造ごとに設計指針として反映させる。
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