研究課題/領域番号 |
23246103
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田邉 新一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30188362)
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キーワード | 建築環境・設備 / 感染症 / リスク / 医療福祉施設 |
研究概要 |
以下の項目に関して研究を行った。 1)空気感染に関する知見の整理:インフルエンザの空気感染の可能性も考慮し、飛沫感染として扱われてきた近距離(1.5m以下)での空気感染のメカニズムを中心として国内外の文献調査を行った。また、感染を引き起こすウイルス・菌を含む飛沫および飛沫核は、主に感染者の咳およびくしゃみにより飛散されるため、PIV(Particle Image Velocimetry)測定により、人の咳の伝搬特性把握を行った。 2) 透析室の快適性に関する実態調査:病院の中央監視データによって年間を通じた空調運転状況を調査し、現状を把握した。また、順天堂大学医院人工腎臓室において、室内温熱環境、空気質に関する実測調査を行うとともに、医療スタッフ、透析患者の室内環境の申告調査を行った。透析患者は貧血や主に糖尿病に起因する血行不良により健常者に比べ体感温度が低くなりがちであり、同様の室内環境において医療スタッフとの間で快適性の差が生まれやすいことを定量的に示した。 3) 模擬咳気流発生装置の開発:感染者の咳によって飛散するウイルスを含む飛沫及び飛沫核による感染リスクの低減効果を検証するために、人体の気道を再現したマネキンを接続した模擬咳気流発生装置を開発した。咳気流の流量、流速、形状、温度をPIV測定などの被験者実験結果と比較し人間の咳を可能な限り再現できるようにした。また、飛沫感染及び飛沫の付着による接触感染を模擬するためにアデノシン三リン酸(ATP)溶液を用いた。この測定法にはさらなる検討が必要なことがわかった。 4) 効果的な清掃・除菌方法の検討:接触感染対策に有効な清掃方法に関して検討を行った。模擬咳気流発生装置を用いて、咳の飛沫の付着場所を確認した。有効な清掃箇所を指摘した。また、人間行動を観察することにより設備、什器などの接触頻度を算定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度途中に採用されたため、一部の研究に関しては平成24年度中に繰り越して行った。その後、日本建築学会、空気調和・衛生工学会において研究発表を行うなど順調に研究が進んでいる。日本環境感染学会に発表した論文に関して、学会書を受賞した。具体的には、空気感染に関する知見の整理が行われた。透析室の快適性に関する実態調査に関しては震災後の貴重なデータを得ることができた。模擬咳気流発生装置の開発に関しては、まだ完成がしていないが、重要な問題点を発券することができた。アデノシン三リン酸(ATP)溶液に関しては検討が必要である。効果的な清掃・除菌方法の検討に関して重要な知見を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた知見を元に以下のように研究を推進する予定である。 1) 空気・飛沫感染を引き起こす感染性微粒子の挙動予測と建築的予防策の創案:飛沫粒子の粒径分布や室内挙動をシミュレートし、従来の感染予防策の再評価を行う。また室内空調の気流制御による低エネルギーで高効率な新しい混合換気システムなど、感染拡大しにくい病院建築ハードウェアの創案を行う。 2) 透析室における患者の症状を考慮した室内環境水準の提案:平成23年度に得られた申告結果を用いて糖尿病の進行状況、神経障害の進行程度等によって病状をグループ化し、グループ間で快適性の違いがあるか検討を行う。快適な室内温熱環境水準を見出す。快適性を考慮した病室計画:入院患者のストレスを軽減したモデル病室を計画する。 3) 咳気流の数値流体解析:飛沫粒子の蒸発に関しては実験的な性状把握が困難なため、数値流体解析(CFD)を用いて検討を行う。この際、人体の発熱を考慮するために体温調節モデル(JOS)と連成する。寄与率を算出することにより、異なる感染症にも対応できるようにする。 4) 模擬咳気流発生装置を用いた空気感染リスク評価:空気感染対策のために気流制御を行うプッシュプル装置の効果を明らかにする。特に気流方向、風量が医療従事者の感染リスク低減に与える影響を実験的に検証する。 空調方式による感染原因物質の濃度低減効果に関しても検討する。効果的な清掃・除菌方法の検証:飛沫の付着部位に関して、実験的に確認する。
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