医療福祉施設における新型インフルエンザ、結核、麻疹などの感染症リスクが現代社会で問題となっている。適切な感染症制御のためには、医学的側面だけではなく建築環境・設備的な側面からもリスク低減策を考える必要がある。本研究では、感染症リスク低減効果の評価手法の構築及びそれらの知見を基盤として次世代型病院建築・設備システムの提案を行うことを目的とした。平成26年度は以下の項目に関して研究を行った。 1)気流・飛沫一系統式模擬咳発生装置の開発:感染者の咳やくしゃみによって飛散するウイルスを含む飛沫及び飛沫核の伝搬特性を把握するために、人間の咳を再現する模擬咳発生装置の開発を行った。気体と飛沫を一系統で同時に吹き出し飛沫を生成することで、実際の咳をより忠実に模擬した。咳の流量、流速、形状、飛沫量を既往の被験者実験結果と比較し、人間の咳を可能な限り再現できるようにした。 2)医療福祉施設における環境表面汚染の実態と清掃方法およびその効果に関する実測・アンケート調査:医療福祉施設における接触感染リスクの評価および接触感染リスク低減策の創出のため、実際の医療施設の診察室・病室を対象としたATP測定法による環境表面汚染度の実測調査を行った。また、対象病院の清掃マニュアル調査、診察室・病室を担当する看護師と清掃者への清掃や環境表面汚染に対する意識に関するアンケート調査を行った。実測結果から、診察室では医師の椅子手摺が、病室ではオーバーテーブルやライトスイッチ等が高濃度汚染面であることが分かった。アンケート調査から、看護師と清掃者の立場ごとの汚染に対する意識の違いを明らかにし、測定対象箇所の汚染度と看護師、清掃者の意識を比較することでスタッフの意識改善が必要な箇所を示した。清掃マニュアルに規定された清掃方法と測定結果をもとに、清掃箇所の順序や清掃用具の使用方法についても検討を行い、改善策を提案した。
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