研究課題/領域番号 |
23246108
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
高村 雅彦 法政大学, デザイン工学部, 教授 (80343614)
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研究分担者 |
青井 哲人 明治大学, 理工学部, 准教授 (20278857)
木下 光 関西大学, 工学部, 准教授 (90288796)
恩田 重直 法政大学, 政策創造研究科, 准教授 (80511295)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 住宅類型 / 都市組織 / 法整備 / イデア |
研究概要 |
本研究では東・東南アジアの沿海部を対象として、それぞれの地域に特徴的な都市住宅の形成過程を空間論および社会論的に認識・把握しながら、都市史をベースにした新たな建築史研究のための方法論を一段と拡大・精緻化し、現代都市における歴史的住宅の再生と創造に向けての諸課題や論点を抽出することが目的である。 高村班は昨年度の上海に続いて、今年度は北京の里弄に関する研究を行った。1900年代初頭のさまざまな法整備の実態と、実測調査から得られた空間との関係について、これまでのアジアに広く分布する都市住宅としての里弄研究とは異なる枠組みを提示した。青井班は、台湾中部の北斗を対象に、竹造家屋が多く作られたことを実測調査を通して明らかにした。しかも、それを都市組織の観点から、いかに改築が加えられていったのかを詳細に分析した。竹の生産地との関係で、テリトーリオを方法論として展開できる可能性があることを示した。木下班は、昨年度の沖縄の琉球瓦に対し、今年度はベトナム・ハノイにおける瓦の生産とその変化、さらにはそれらと連関した街並みの変容に焦点をあてた研究を行った。恩田班は、中国福建省のアモイを対象に、土地と建築の売買文書から、都市住宅がいかに変容するのか、その前提条件となる史料の存在と内容について研究した。また、研究補助者の大田省一は、社会主義の都市と建築と題して、ソ連、中国、ベトナムの近代における計画理念とその実態について研究した。人間が抱くイデアと都市建築の関係は、永遠に興味の尽きないテーマである。 全体を通して、東・東南アジアにおける都市住宅研究の特性とその方法について、現地調査から、いかに研究の枠組みを創出できるか、その可能性を相互に確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度にあたる平成23年度は、年度テーマを共通テーマの「1.伝統的な都市住宅の形成過程とその諸類型」とし、各研究単位がこれまでの研究業績をさらに精微かつ探化させることが主な計画であった。組織結成後、早急にこれまでの研究成果を再検討し、不足している点を現地調査・文献収集することが必要であった。その過程で、各研究単位の具体的な謀題としては、A.華北の都市住宅の類型に関する整理、B.都市住宅の類型抽出のための総合的研究、C.東・東南アジアの都市住宅に関わる調査研究が具体的なテーマとなった。各研究班は、これらの視点に基づいて十分な成果を上げることができた。 第二年度の平成24年度は、前半でこれまでの研究蓄積と第一年度目の成果を検討し、研究者全員で共通テーマの「1.伝統的な都市住宅の形成過程とその諸類型」に関するまとめを行った。とくに、各研究単位の具体的な研究課題としては、第一年度目の三つのテーマを継続して研究し整理することができた。後半では、それをベースとして諸類型の抽出を行った。この第二年度までの成果が、その後の近代化過程を考える上で重要な土台となり、第三年度目に向けても同じ枠組みで継続することの意義が確認された。 問題としては、第二年度目に海外の研究者を招へいして国際シンポジウムを開催する予定であったが、日中間の問題が発生し、開催が中止になったことがあげられる。第三年度に開催する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、研究の方法や最終的な着地点について議論した。バシュラール『空間の詩学』や鈴木博之『東京の「地霊」』に見る想像力や場所性、さらにはアナール学派が提唱する空間と社会、吉田伸之の分節構造とともに、やはり陣内秀信が紹介・実践したムラトーリ派のティポロジアの概念が改めて有効ではないかということが確認された(『都市を読む*イタリア』)。これまでは単体の建築が持つ類型ばかりに注目が集まり、それが批判の根拠ともなっていたが、そもそも都市⇔道路・川⇔街区⇔敷地⇔空間構成⇔生活を連続的に把握するためのコンテクスト論であって、そちらにもっと目が向けられるべきであるという共通した認識をもった(『北京―都市空間を読む』)。一方で、ティポロジアが持つ都市と建築の同一性に対し、アジアではそれらを切り離して空間が更新される、つまり布野修司が指摘したルフェーブル理論(『都市への権利』など)も視野に入れなければならず、その間に立ってもう一度自らの研究を問い直してみることが研究推進の基盤となることを確認した。 文化財となりうる、あるいはつくられた当初そのままの建築の価値ばかりに注目が集まってきたことが大きな疑問であり、そうではなくむしろ変容のメカニズムを正面から取り上げるべきではないか、そうでなければ新規とは別の「継承すべき本質」は見えてこないという認識で一致している。研究組織が対象とする地域特有の本質に応じて、それをアジアの都市住宅を研究・推進するための方法として改めて見直そうというものである(『彰化一九〇六年』)。
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