研究課題/領域番号 |
23246112
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 周 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10182437)
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研究分担者 |
三好 正悟 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30398094)
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キーワード | 表面・界面物性 / プロトン伝導 / 固体酸 / Lewis酸 / 電気二重層 |
研究概要 |
本研究ではナノ粒子から構成されるバルク体,薄膜を,主にゾルゲル法などの溶液合成法(化学的方法)と反応性スパッタなどの物理的方法により合成し,その表面の酸塩基と酸化還元を同時に利用することにより,中低温で高いプロトン伝導性等の多様なプロトン活性を有する酸化物表面を創製する.種々の酸化物の表面に化学ドープしたZrO2系,TiO2系およびZnO系について,ゾルゲル法によりナノ粒子バルク体を作製する.薄膜試料は結晶質で固体強塩基であるZrO2系,CeO2系と非晶質Ta酸化物(a-TaOx)をマトリクスとする系で行う. 合成試料は,ACインピーダンス測定からイオン伝導度を求め,同位体効果と水蒸気圧依存性を測定する.また,TG-DTAによる昇温時の熱重量変化,TDSによる放出ガススペクトル観察,高温偏光変調高感度赤外反射分光装置測定から表面ODの存在形態を調べる.さらに,O1s XASにより化学ドーパント添加がフェルミ準位付近の非占有準位に及ぼす影響,表面OH存在による電子構造変化を検討する.またRIXS測定でO1sからの選択励起を用いて価電子帯(VB)構造を調べる. 純粋な固体強酸/塩基の水和反応では単一遊離イオンによる表面電荷の緩和がおこる(Schottky型)が,①複数のイオンが緩和に関与するGuy-Chapman型とすることや,②多段解離してプロトンを放出する分子有機酸等の吸着を用い,電気二重層中の急峻な内部電位を解消してデバイ長を増大させる.電気二重層の解析には上述のFT-IR/ATRと赤外反射分光測定と共に,RIXS環境セルにて表面近傍の深さ方向測定を挑戦する.in-situ分子分光電気化学分極セル技術を開発して,分極下における電位分布変化の測定も試みる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては,ゾルゲル法を用いた化学的方法により,5-10nmの結晶子径を有する高結晶性のY2O3 を添加したZrO2(YSZ)系,ならびにGd2O3を添加したCeO2(GDC)系ナノ粒子を合成し,超高圧(4GPa)室温プレスによりバルク体を合成し,高いプロトン伝導が発現することをACインピーダンス測定と伝導度の同位体効果などから確認した.イオン伝導は500℃以下で少なくとも4種類の異なる見かけの活性化エネルギーを有していること,プロトン伝導が優勢と思われる温度域では水蒸気依存性を有することなどが新たに判明した.また常温付近では温度の低下とともに著しく伝導度が上昇するとともに,それまで明瞭に現れていた同位体効果が抄出することなどがわかった.また高温セルによるFT-IR測定により,異なる伸縮振動波数を有する表面OH基の存在を確認するとともに,H2O/D2O雰囲気の切り替えによる表面OH/ODの交換反応の時間発展などの観察も行うことができた.この様々な塩基性を有するOH基の存在は熱放出スペクトル法によっても観察され,これらの存在とイオン伝導性の関係について検討を行っている.また,これら塩基度の異なるOH基の定量的議論のため,固体NMRによる測定の準備を行っている段階にある. 反応性スパッタを用いた物理的合成法では,様々なTa/O比を有する非晶質TaOx膜(a-TaOx)を合成し,その物性についてXPS,硬X線光電子分光法(HX-PES)ならびにO1s軟X線吸収分光(SX-XAS)により,フェルミ準位付近の電子構造が酸化還元によって変化する様子や酸素配位多面体の変化をRaman分光により観察した.今後は水和による構造変化や電気輸送特性への影響などが課題である.
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今後の研究の推進方策 |
化学的方法によるナノ粒子バルク体に関しては,これまで合成してきたYSZ系とGDC系については,さらに詳細な伝導率の雰囲気依存性,温度依存性とともにCO2及びSO2/SO3ガスによる表面化学吸着を用いた表面修飾の影響を調べる.また,表面酸塩基を変調させるために化学ドーピングを施したTiO2ナノ粒子合成を行い,それによる表面吸着の変化とイオン伝導度の関係を調べる.TiO2はバルクの電子伝導を有し,常温超高圧合成で形成される粒子間に形成される表面水和チャンネルによるイオン伝導と粒子接触を通じて形成される電子伝導パスによる混合伝導が可能であるとともに,バルクイオン伝導性がないという特徴を有する.YSZ, GDC系のバルク酸化物イオン伝導の影響がプロトン伝導性に影響を及ぼしている可能性もあり,対照的な性質を有するTiO2との比較が興味深い. 一方物理的方法によって形成する酸化物薄膜においては,現在行っている反応性スパッタでは,種々の酸素濃度を有するAr+O2混合ガスを用いてa-TaOxの酸素量xを調整し得ているが,これにD2Oを加えて成膜時に水和させる方法によりODをトレーサーとした水和a-TaOx膜を合成する.高温FT-IRならびにRaman分光法によるODならびに酸素多面体の情報を得るとともに,TDSによるD2Oの安定性評価とACインピーダンス測定によるイオン伝導性について,O/Ta比の変化に伴う酸塩基性の変化が水和反応に及ぼす影響を検討する.さらに固体NMRによりプロトンの状態に関する情報を得るとともに,環境セルを用いたSOR-PES測定の準備を行う
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