研究課題/領域番号 |
23246114
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
小松 高行 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (60143822)
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研究分担者 |
本間 剛 長岡技術科学大学, 工学部, 准教授 (70447647)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | レーザー誘起結晶化 / ガラス / 結晶成長 / 単結晶ライン / 非線形光学結晶 / 透過電子顕微鏡 / 集束イオンビーム / 結晶配向 |
研究概要 |
本研究は、申請者らが開発したレーザー誘起結晶化法をガラス表面での平面状二次元エピタキシャル結晶パターニング、ガラス内部への単結晶ラインパターニングへと新たに展開して本手法の基盤技術を創出すると共に、レーザー照射領域での結晶成長機構を解明して、従来の結晶成長概念にブレイクスルーをもたらす新たな結晶成長工学を構築することを目的とする。本年度得られた結果を以下に示す。 1)レーザー焦点位置をガラス表面から徐々にガラス内部に移動させることによって、光非線形性を有するBaB2O4結晶を深さ200マイクロメーターまで自在にパターニングできることを実証した。様々な深さ位置での結晶形態をレーザーパワー、レーザー走査速度の関数として定量的に明らかにした。ガラス内部でのパターニングでは、凹凸やクラックなどが存在する表面と違って非常に均一であり、2-3cm程度の非常に長い、しかも高い配向性を有するBaB2O4結晶のパターニングに成功した。定量的な光導波実験への道を拓いた。また、複屈折イメージング装置を用いて、BaB2O4結晶の配向性を評価した結果、中心部はレーザー走査方向に沿ってc-軸配向をしているが、周辺部は、温度勾配の形成により中心部とは違って配向状態を取ることを明らかにした。 2)高配向性を有するGdxBi1-xBO3結晶をレーザーパターニングし、集束イオンビーム(FIB)加工法と透過電子顕微鏡(TEM)観察を組み合せることによって、いままで結晶構造が未知であった準安定結晶GdxBi1-xBO3の結晶構造を明らかにした。結晶成長工学の構築にとって、レーザーパターニング、FIBおよびTEM観察の3つの組み合わせはこれまでにない極めて有力な結晶構造および優先成長方位の実験的決定手法であることを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ガラス内部にパターニングされた結晶は集束イオンビーム加工法と透過型電子顕微鏡観察等によって、単結晶的な高い配向性を有し、かつ、様々な深さ位置に自在に制御できることを実証した。また、ガラス内部は、ガラス表面と違って非常に長い結晶ラインのパターニングが可能であることから、パターニング結晶の光制御デバイスへの応用展開に大きく道が拓けた。特に、ガラス内部への結晶パターニングの成功は、我々が提案したレーザー誘起結晶化法はガラス表面のみへの結晶パターニングとして見られていたために、その評価を全く変える非常に大きなインパクトを与えるものである。また、様々な結晶のパターニングにより、レーザー誘起結晶化法の一般性をより確かなものにすると共に、従来の結晶成長手法とは全く違う手法であることをさらに強く主張できた。本研究の最大の目的である新結晶成長工学の構築にさらに大きく近づいたと確信する。 レーザー誘起結晶化の理解において、パターニングされた結晶の評価と共に基板ガラスの構造や物性の評価も不可欠である。この点に関しても、1)ガラスの電子分極状態とイオン間の結合強度との関係、2)Gd2O3-WO3-B2O3系ガラスでの透過電子顕微鏡観察による分相挙動の解明、3)次世代リチウム/ナトリウムイオン二次電池用ガラス材料の開発、などに多くの研究成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、レーザー誘起結晶化法を用いて、ガラス表面および内部に非常に長く、かつ、屈曲状や曲線状の形態を有する機能性結晶のパターニングが可能であることを実証してきた。今後は、それらのパターニング結晶について、定量的な光導波路や光変調実験を行う必要がある。また、本手法の世界への更なる発信のために、現在注目されている次世代リチウム/ナトリウムイオン二次電池用結晶、マルチフェロイックBiFeO3結晶などにも展開し、パターニングと特性評価を行う計画である。 結晶成長工学の構築のためには、ガラス/単結晶ラインの界面状態、すなわち、元素分布、構造、電子状態のナノレベルでの解明必須である。界面の状態は、前駆体ガラスと生成結晶相の化学組成がほぼ同じ場合とまったく異なる場合で大きく違ってくる。さらに、レーザー誘起結晶化では、空間的に限られた領域のみが加熱され、極めて急峻な温度勾配が形成される。また、単結晶ラインのパターニングでは、レーザー焦点位置は一定速度で移動するため、急峻な温度勾配は時間経過と共にレーザー走査方向に沿って変化する。したがって、ガラス/結晶界面の状態は、レーザー照射条件によっても大きく変化することになる。ガラス/結晶界面のナノレベルでの構造および電子状態を解明し、界面制御と設計に科学的道筋をつけると共に、混とんとしているガラスの結晶化機構および速度論にナノレベルからアプローチする必要がある。このナノレベルの解明は、実験的に非常に難しいが、ガラスと結晶の両方の物質に対して構造および電子状態の解析が可能なAFM(原子間力顕微鏡)-ラマン散乱スペクトル測定が有力と考えられる。この種の実験の可能性も進める計画である。
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