研究課題/領域番号 |
23246142
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
松岡 英明 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10143653)
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研究分担者 |
斉藤 美佳子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20291346)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 胚性幹細胞 / 未分化状態 / 遺伝子発現動的制御 / フェムトインジェクション |
研究概要 |
(1)外来タンパク質の細胞内寿命の再調査:制御因子として直接導入するタンパク質が、細胞内で安定に存在する時間を推定するために、EGFPおよびDsRedを例に、その蛍光寿命を調べた。既に初年度に得た結果は変動が大きかったので、今年度再調査した。その結果、EGFP、DsRedの蛍光強度は、ES細胞内で各々半減期2~4 h、1~3 hで減衰することが分かった。したがって、外来タンパク質は半減期1~4時間で減衰する場合が多いと推論した。 (2)転写因子(Oct3/4、Nanog、Sox2、Cdx2)の発現可視化ベクターの作製:既にOct3/4発現可視化ベクター(p-proOct3/4-EGFP)を作製しているが、新たにVenusをレポーターとする可視化ベクターを作製することとした。骨格ベクターとしてpCS2-Venusを用い、これに元々入っているCMVプロモーターを各転写因子のプロモーターとSalI - BamHIサイトで入れ替えることとした。Nanogに対しては、プロモーターが正しく挿入されたベクターp-proNanog-Venusが得られた。しかし、他の転写因子に関してはまだ成功していない。 (3)転写因子のタンパク質生合成:最初に Oct3/4タンパク質の生合成を行った。Oct3/4遺伝子は自身の産物であるOct3/4タンパク質で発現することが知られているので、作製したタンパク質をp-proOct3/4-EGFPと共にMIN6細胞に導入したところ、わずか1細胞であるが、EGFPの蛍光を発する細胞が得られた。これに対して、p-proOct3/4-EGFPのみを導入した場合は全く蛍光細胞が得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)初年度に、EGFPとDsRedのタンパク質を外来タンパク質の例として、細胞内での安定性を調べようとした。偶々DsRedはEGFPに比べ、はるかに安定であるとの実験結果を得た。しかし、細胞ごとの変動は大きく、結論は控えられた。そのため、本年度、改めて細胞の状態を慎重に揃えて再度調査した。その結果、むしろ、EGFP、DsRed共に蛍光強度が指数関数的に減衰していくことがわかった。すなわちタンパク質を導入した場合は比較的速やかに分解されることを前提に実験を組み立てる必要があるとの結論に達した。当然考えていなければならなかったことであるが、むしろ逆に、安定であって欲しいという考えが先に立ってしまった。そのために、全体計画が遅れることになってしまった。 (2)4種類の転写因子の発現可視化ベクターの作製に際しては、当初、pCS2-Venusを用い、これに元々入っているCMVプロモーターを各転写因子のプロモーターとSalI - BamHIサイトで入れ替えるだけであるので、比較的短期間で終了すると考えていた。ところが、Oct3/4とCdx2のプロモーター配列内部にはBamHIサイトがあるため、直接は組み換えできないことが判明した。そこで、新たに、両端にBamHIとEcoRIの認識配列を持つアダプターを設計し、これを介在させるようにした。こうした経緯によって、当初の研究計画が遅れた。 (3)転写因子のタンパク質生合成に関しても、得られたタンパク質の活性確認のために行った、バインディングアッセイで、明確なバンドが得られなかったために、その原因究明のため時間がかかり、その分計画が遅れた。この件に関しては、未だに原因がわからず、引き続き検討課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
当初、細胞内に導入したタンパク質の安定化を考えていたが、技術的に困難であると判断し、導入後は分解され指数関数的に減少することを前提に、導入するタイミングを考えることとした。また、発現強度を定量的に議論する必要があるため、ゲノムにシングルコピーで可視化ベクターがインテグレーションされた細胞株を作製することが、当初の目的であったので、その課題を進めることにした。しかし、アダプターを介して作製しつつあった発現可視化ベクターは、そのような細胞株の作製に先立って、トランジェントのアッセイで使うために進めていたことであるが、それが設計通りにできない問題は、細胞株作製に際しても、同様に障害になるかも知れない。そのため、直ちにその原因調査をする予定である。 一方、タンパク質合成に関しては、得られたタンパク質の機能評価をバインディングアッセイで行っているが、確実性に欠ける状態である。その状態で、細胞にインジェクションで導入した結果、活性を示した細胞はわずかに1個のみであった。タンパク質自体の活性が低いのか、インジェクション成功率がまだ低いのか、今のところ判断は難しいが、何れも、基本方針は妥当と思われるので、試行数を出来るだけ増やすよう努力する予定である。 細胞内で複数の遺伝子発現が同時に起こる現象を動的に解析するためには、数学的モデルの構築が必要と考えられる。実験に必要なツール作製と並行して、そのような解析の準備も速やかに進める予定である。
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