研究課題/領域番号 |
23246152
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研究機関 | 独立行政法人海上技術安全研究所 |
研究代表者 |
上野 道雄 独立行政法人海上技術安全研究所, その他部局等, 研究員 (60358405)
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研究分担者 |
宮崎 英樹 独立行政法人海上技術安全研究所, その他部局等, 研究員 (10415797)
田口 晴邦 独立行政法人海上技術安全研究所, その他部局等, 研究員 (70344455)
北川 泰士 独立行政法人海上技術安全研究所, その他部局等, 研究員 (50579852)
黒田 貴子 独立行政法人海上技術安全研究所, その他部局等, 研究員 (00415811)
塚田 吉昭 独立行政法人海上技術安全研究所, その他部局等, 研究員 (90425752)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 多方向不規則波浪場再現 / 海難事故再現 / 波浪場制御 / 自由航走模型用補助推力装置 / 多方向波中ブローチング現象再現 / 双峰性方向スペクトル再現 |
研究概要 |
過去の海難事故を調査し、ブローチング現象による海難事故と思われる漁船の事故例を取り上げ、事故当時の海象を表現する方向スペクトルを推算しました。その結果、まったく逆方向にスペクトルのピークを持つ双峰性の方向スペクトルであることがわかりました。これは、当時の気象・海象の変化とよく符合する結果であることもわかりました。 推定した方向スペクトルを実海域再現水槽の全周造波装置に入力し、当時の海象を模型船尺度で再現しました。波浪場の計測によって双峰性のスペクトルが再現されていることが確認されたほか、解析法によっては十分な分解能がなく明確な双峰性を示さないなど異なる解析法の特徴も明らかにすることができました。 再現した多方向不規則波浪場の計測と観測によって船にとって危険と思われる状況の候補を探しだし、水密漁船模型をその状況に遭遇するように航走させました。航走に当たっては水槽施設全体の集中制御システムを用いて繰り返し性が確保されるようにしました。多くの状況は斜め追い波状態です。多方向不規則波中のいくつか選定した状況と最も基本的な規則波中での実験の結果、小型船舶にとって危険な状況である複数の現象を確認することができました。これらは復原力喪失と船首没水、ブローチングに分類される現象で、転覆に至るまでの現象の再現に成功しました。 理論計算手法について傾斜時の流体力推定に基づく船体運動の計算に取り組みました。復原性能の差によって操縦運動を含む船体運動が有意な影響を受けることを明らかにすることができました。荷重度変更自走試験システムを実現する補助推力装置を製作し、これを用いた新しい自由航走試験法を提案しました。基礎実験とこれを裏付ける理論計算にも取り組み、その有用性の基本的な確認ができました。 これらの成果は海難事故の発生機構解明と原因究明に資する技術の確立につながると考えます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の海難事故を調査し、ブローチング現象による海難事故と思われる漁船の事故例を取り上げ、事故当時の海象を表現する方向スペクトルを推算しました。その結果、まったく逆方向にスペクトルのピークを持つ双峰性の方向スペクトルであることがわかりました。これは、当時の気象・海象の変化とよく符合する結果であることもわかりました。 推定した方向スペクトルを実海域再現水槽の全周造波装置に入力し、当時の海象を模型船尺度で再現しました。波浪場の計測によって双峰性のスペクトルが再現されていることが確認されたほか、解析法によっては十分な分解能がなく明確な双峰性を示さないなど異なる解析法の特徴も明らかにすることができました。 再現した多方向不規則波浪場の計測と観測によって船にとって危険と思われる状況の候補を探しだし、水密漁船模型をその状況に遭遇するように航走させました。航走に当たっては水槽施設全体の集中制御システムを用いて繰り返し性が確保されるようにしました。多くの状況は斜め追い波状態です。多方向不規則波中のいくつか選定した状況と最も基本的な規則波中での実験の結果、小型船舶にとって危険な状況である複数の現象を確認することができました。これらは復原力喪失と船首没水、ブローチングに分類される現象で、いずれも転覆に至るまでの現象の再現に成功しました。 理論計算手法について傾斜時の流体力推定に基づく船体運動の計算に取り組みました。復原性能の差によって操縦運動を含む船体運動が有意な影響を受けることを明らかにすることができました。荷重度変更自走試験システムを実現する補助推力装置を製作し、これを用いた新しい自由航走試験法を提案しました。基礎実験とこれを裏付ける理論計算にも取り組み、その有用性の基本的な確認ができました。 これらの成果は海難事故の発生機構解明と原因究明に資する技術の確立につながると考えます。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは波による強非線形現象の再現と解析が中心でしたが、今年度からは風の影響をも含んだ現象の再現と解析に取り組みます。波と風が併存する状況下での現象の再現についてはこれまでにごく限られた研究例しかなく、実験技術としてはこれまで以上に困難が予想されます。 まず、波の存在する環境下での風環境の再現に関し、定常風と変動風の影響の違いや風と波との干渉など実海域での風を含んだ環境の再現についての実験手法の確立に取り組みます。風洞とは異なる試験水槽での風環境再現と計測技術にも取り組む必要があると考えます。 次に、上部構造物まで再現し、風の影響まで評価できる模型船を用いて荒天中における大振幅船体運動の再現をおこないます。海水打ち込みなどは復原性能に影響を与え、転覆に近い状況も考えられますし、強い風と大きな波が操船不能状況を招けば座礁事故につながることも考えられます。このような観点から波風併存時の海難事故の特徴を捉えた再現実験の実現に努めます。 模型船のプロペラ荷重度を自由に制御できる新しい自由航走模型試験法を提案し、その有効性を理論的・実験的に明らかにしていきます。そしてこの手法を用いた模型実験によって海難事故のより忠実な再現を目指します。さらに、これまでの実験データの蓄積を踏まえて、過渡現象の再現まで可能な理論計算法の確立に取り組みます。 さらに、環境負荷の低減化のためエンジン出力を小さく抑えた船が増加しその結果荒天時に操船不能になって海難事故の増加が心配されている状況に鑑み、本課題ではこれら社会的な問題に対しても科学的な面から解決策を提案できるような成果につなげたいと思います。 以上、一連の取り組みを通じて基礎的な面からの海難事故の現象解明に取り組むとともに、その防止策の立案に資する成果を上げていきたいと考えています。
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