研究課題/領域番号 |
23247010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹井 祥郎 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (10129249)
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研究分担者 |
安藤 正昭 東京大学, 大気海洋研究所, 研究員 (10100976)
日下部 誠 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (40451893)
椋田 崇生 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (60346335)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 比較内分泌 / 浸透圧調節 / 飲水行動 / 上皮輸送 / レニン・アンジオテンシン / ナトリウム利尿ペプチド / グアニリン |
研究概要 |
本年度は、次のテーマの研究を進め、それらの成果は13報の英文原著論文、1報の和文原著論文、4報の和文総説、2部の英文図書の1章として公表した。 1. 魚類における飲水調節の中枢として、後脳の脳室周囲器官である最後野の役割を明らかにした。すなわち、この血液脳関門がない部位を破壊すると、飲水惹起ホルモンであるアンジオテンシンや飲水抑制ホルモンであるグレリンや心房性ナトリウム利尿ペプチドを血液中に投与しても効かなくなることを証明した。いっぽう、血圧を上昇させるホルモンは一般的に飲水を抑制するが、血圧上昇ホルモンであるバソトシンやウロテンシンは飲水を抑制し、その抑制は最後野を破壊しても変化しなかった。したがって、これらのホルモンは血圧受容体を介して反射的に飲水を抑制していると考えられる。いっぽう、アンジオテンシンは血圧上昇ホルモンであるにもかかわらず注射後瞬時に飲水を惹起するが、その後しばらく抑制が持続する。最後野を破壊すると瞬時の飲水が消失し、より大きな抑制のみが見られるようになる。この結果からも、飲水の惹起は最後野を介しているが、それに続く抑制は血圧受容体を介していることがわかる。 2. 新学術領域研究「ゲノム支援」の支援を受け、ウナギとメダカを海水に移した際に腸において発現が変化する遺伝子を、次世代シーケンサーを用いたトランクリプトーム解析(RNA-seq)により同定し、現在それらを一つずつ機能(転写因子、水やイオンの輸送体、血管増殖因子等)、移行後の発現パターンの違い、発現量などのパラメーターにより分類している。それが終わると、重要と思われる遺伝子の腸における発現細胞やノックダウンによる海水適応能への影響などを調べて新規海水適応遺伝子を発見したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(理由)上記のスペースには書けなかったが、イソトシンというホルモンが強力に飲水を惹起することを発見した。このホルモンはバソトシンと同様に脳下垂体神経葉から分泌されるホルモンで、哺乳類ではバソトシンのオルソログであるバソプレシンが最も重要な水保持ホルモンで、イソトシンのオルソログであるオキシトシンは飲水惹起を含む水保持作用を持たない。また、イソトシンは血圧を上昇させるにもかかわらず飲水を惹起する(同様に血圧を上昇させるバソトシンは飲水を抑制する)。さらに、イソトシンは後脳にある最後野に作用して嚥下を惹起することにより飲水させることがわかった。このように、イソトシンは重要な体液調節ホルモンであることがわかったので、現在他の浸透圧調節部位(腸、鰓、腎臓など)に作用して体液を保持させるかどうかを、その受容体のクローニングを含めて鋭意研究を進めている。また、昨年度に新学術領域研究の「ゲノム支援」の援助を受けて、ウナギとメダカの腸における海水移行後のトランスクリプトーム解析(RNA-seq)を行なって、重要な海水適応遺伝子(転写因子、水・イオン輸送体、血管増殖因子、細胞間接着分子など)の候補を発見している。このように、本年度の計画に書いた以上の大きな進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題で最も注目していたVasoactive Intestinal Peptide (VIP)に関して、このホルモンを担当していた大学院生が昨年末より体調を崩し休学をしたため、テーマを他の人に与えることができず研究が滞っていた。しかし、15年4月より研究を再開して9月に修士を終えるべく頑張っている。そこで、本年度中にはウナギで同定したVIPを用いて、その組織分布や生理作用(飲水行動と腸におけるイオンの吸収に対する作用)をまとめて発表したい。また、イソトシンの飲水惹起作用は世界でも注目されるようになったため、海水適応に対するさまざまな作用を調べて成果を世界に問いたい。トランスクリプトーム解析に関して、すでに候補遺伝子が得られている腸においてその組織分布をin situ hybridizationで調べると共に、当研究室で開発した腸で特異的なノックダウン法を用いて当該遺伝子の海水適応における重要性を評価する。また、本年度は海水適応に最も重要と考えられている鰓を用いたトランスクリプトーム解析を「ゲノム支援」に申請した。それば採択された場合は、新規海水適応遺伝子を見つけてこの分野の発展に貢献したい。
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