研究課題
本年度は核内受容体の発現精製系を確立することに集中した。糖尿病等、生活習慣病に最も重要なPPARγ/RXRα複合体については、安定な複合体を精製することに成功した。また、これまで機能不明であるAF1領域の欠失変異体で構成された複合体も取得でき、全長分子との差異を解析する準備が整った。また、RARα/RXRα複合体は、大腸菌を用いた発現系の確立に成功し、精製系も確立しつつある。しかし、まだ安定な複合体の取得には至っていない。次に、非常に強いヌクレオソームポジショニング配列をもつ601配列を基に、核内受容体応答配列をヌクレオソーム構造から見て望む位置に組み込み、核内受容体とヌクレオソームの結合を解析した。まず、応答配列を適切な位置に組み込んだ数種類のDNAを構築した。これらのDNAを用いて、ヌクレオソームを再構成し、それに対するPPARγ/RXRαの結合実験を行った。その結果、PPARγ/RXRαは、応答配列がヒストンに結合しないリンカーDNA領域に存在する場合に、相対的に強く結合する事がわかった。ヒストンと相互作用したヌクレオソーム部分の応答配列に対しては、PPARγ/RXRαは有意に弱く結合する事実が判明した。さらに、ヌクレオソーム立体構造におけるPPARγ/RXRαの結合位置の選択性を明らかにするために、応答配列のヌクレオソーム上の位置を様々に変えたヌクレオソームとPPARγ/RXRαの親和性を調べた。その結果、親和性は応答配列がヌクレオソーム内部に存在するものほど弱くなることがわかった。加えて、最も強い結合を示したヌクレオソーム上の応答配列でさえ、10-100μMレベルの解離定数であったために、これ以上の詳細な解析は不可能であった。一方、これらの相互作用はリガンドの有無、リガンドの種類、転写共役因子ペプチドの有無、核内受容体AF-1領域の有無などでほとんど変化しなかった。このように、今後当該研究の最終目標、ヌクレオソームと核内受容体の構造解析に向けて有益な知見が得られた。
3: やや遅れている
PPARγ/RXRαとヌクレオソームの相互作用は初めに予想したほど強くなかったため、より強く結合する解析に適した条件を探索する事が必要となった。さらに、結合が弱いため、フットプリント解析によるヌクレオソーム構造上の核内受容体結合位置の同定や細胞内における核内受容体応答配列のヌクレオソームポジショニングの解析など詳細な実験を進めることができなかった。
今後はヌクレオソームと強い結合がみられないPPARγ/RXRαにこだわらず、RARα/RXRαとヌクレオソームの結合実験にシフトしていく予定である。RARα/RXRαは、すでにヌクレオソーム上の応答配列に強く結合するという報告があり、この再現性を調べることを直近の目標とする。報告されたDNA配列は生体内のプロモーター配列である。もし、PPARγ/RXRαと同様に、601配列で作製したヌクレオソーム上の応答配列に対してRARα/RXRαが強く結合できないという結果となった場合、DNA配列に対応してなぜそのような変化が起こるのかを解析する必要がある。例えば、生体内プロモーター配列では、核内受容体の結合に伴って、ヌクレオソームスライディングが起こり、応答配列のヌクレオソーム上の位置が変化する可能性がある。それを確かめるために、DNaseフットプリント実験、MNase消化ポジショニング解析、さらにはヒストンとDNAのそれぞれに蛍光色素を導入し、核内受容体結合に応じて引き起こされるFRET変化からヌクレオソームスライディングを解析する方法も考慮に入れる。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (7件)
Cell
巻: VOL.148(3) ページ: 487-501
10.1016/j.cell.2011.11.061
J Cell Biol.
巻: 193 ページ: 125-140
10.1083/jcb.201012050
Protein Eng Des Sel.
巻: 24 ページ: 397-403
10.1093/protein/gzq121
BMC Biol.
巻: 9 ページ: 28
10.1186/1741-7007-9-28