研究課題/領域番号 |
23247022
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樋口 秀男 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90165093)
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キーワード | ダイニン / 1分子 |
研究概要 |
細胞質ダイニンはATP加水分解のエネルギーを使って微小管上を移動する分子モーターである。2つの細胞骨格モーター「細胞質ダイニン」と「キネシン」は微小管上を移動しながらオルガネラやタンパク質を輸送する役割を担っており、ダイニンは細胞膜から核付近まで輸送し、キネシンは反対方向核から細胞膜まで輸送を行う。細胞内では、この逆方向に移動するモータータンパク質をうまく調節して正確に輸送を行っていると考えられるが、その制御機構は分かっていない。この制御機構のモデルの1つに“綱引きモデル”がある。このモデルは輸送する荷物に結合しているダイニンとキネシンの数によって移動する方向が決定されるというものであり、荷物に結合する分子数と1分子が発生する事ができる最大力が重要な要素となる。ダイニンが発生する力に関しては我々のグループが天然ダイニンを用いて7pNであると主張しているのに対し、1-2pNしか出さないと主張するループもあり、未だに論争が続いている。そこで我々はどちらが正しいかを確かめるために運動を制御する可能性のある尾部を切り取ったモーター部位のみヒト細胞質ダイニンを発現し、運動と力測定を行った。ダイニンを結合した220 nmのビーズを光ピンセットを用いて捕捉してガラス上にある微小管上に結合させ、ATPを加えてダイニンを運動させた時のビーズの変位を計測する事により最大発生力を見積もった。その結果、ダイニンのモーター部位の最大力は約7pNであり、我々のグループが以前に報告したブタ精製ダイニンの最大力と同程度であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイニンの力学測定はこれまで困難であり正確に測定されて来なかった。この測定が本年度に成功したことは、研究が順調に進んでいる指標となる。研究の中でも、破弾力がうまく測定できたことは意義が大きい。なぜならば、これまでに、ダイニンの破弾力は成功していないからである。したがって、本年度は、研究が順調に進んだことを示している。
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今後の研究の推進方策 |
1.装置開発:蛍光輝点の観察装置を3次元的に観察のできる装置に改良を行う。我々は、2焦点装置を開発し 、z方向(深さ方向)の位置精度を5nmにまで向上することに成功した(渡辺、樋口他BBRC 2007).その装置では画像を2光路にわけ、片方のレンズを可動とし、焦点の異なる2つの像を1つの高感度CCDに結像するため、高速で3次元位置を求めることができる。この装置を初年度に開発した蛍光輝点解析装置と組み合わせて、弾性率や運動を三次元的に計測を行う。この装置で、細胞内のモーター分子運動を3次元かつナノメートル精度で求め、in vitroと細胞内との運動を比較検討する。特にモータータンパク質に関連する運動である小胞輸送と分裂時の中心体及びの運動をモニターする。その動きから、どのような種類のモーター分子が力発生に寄与しているかを説明できるモデル計算を行う。 2.精製タンパク質実験: 昨年度ダイニン分子の組替体の発現に成功したので、このダイニン分子のパワーストロークサイズの計測を行う。2つのビーズをトラップし、それらを微小管の両端に結合して、ダイニンと相互作用させ、1分子の生み出す変位を測定する。 3.細胞内実験:外から加えたダイニン-量子ドットの変位が得られるようになったならば、3次元的な運動を観察できるように、顕微鏡に2焦点ユニットを結合して、同時に異なる焦点で量子ドットの画像を取得して、3次元的な運動を解析する。現有のGFP微小菅発現細胞を利用してその運動が、微小菅近傍で起こっているのかを確認する。同様な実験をキネシンやミオシンを用いて行い、細胞内モーター運動を網羅的に解析する。さらに、新たに開発された、微小ビーズを用いた計測装置を利用して、モーター1分子および多分子のステップサイズ、力、パワーストローク長、解離反応速度を測定する(初年度はおもにダイニンを用いる)。
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