研究概要 |
本申請は、ナトリウム駆動型べん毛モーターのエネルギー変換ユニットである固定子におけるイオン透過時のダイナミックな構造変化と、回転子相互作用を解明することを目的としている。MotB (PomB)の膜貫通領域にはNa+結合部位として、高度に保存されたアスパラギン酸残基が存在する。このアスパラギン酸をアスパラギンに置換したPomB-D24Nは運動能欠損となるが、最近になって、PomA-N194D変異がこの運動能欠損を回復させることを報告した。このPomB-D24N/PomA-N194変異体の運動能は非常に弱く、より運動能の高い変異体の取得が試みられた (sp1, sp2, sp3, sp4)。これらの変異体は染色体上にup-motile変異があることが推察されたが、べん毛関連遺伝子に変異が見つからなかったため、同定することはできなかった。そこで、次世代シーケンサーを用いてゲノム解析を行い、up-motile変異を同定した。sp1とsp2についてゲノム解析を行ったところ、sp1、sp2ともにATP合成酵素のaサブユニットに変異が同定された(sp1はA214V、sp2はE174ochre)。ゲノム解析の結果と、Δa subunit株がup-motileになることから、ATP合成酵素のaサブユニットに変異が入ることで,運動能が上昇することを明らかにした。Na+低濃度において、Δa subunit株の遊泳速度は、NMB191株よりも50~80%速いこと、また、KCN存在下ではこの高い運動能が抑制されることから、up-motileの原因として、aサブユニットの変異により、FoF1ATP合成酵素が機能しないため、呼吸鎖により形成されるH+の電気化学ポテンシャル差が解消されず膜電位が上昇し、結果としてNa+駆動力が上昇すると推測される。
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