研究課題/領域番号 |
23247027
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
木寺 詔紀 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (00186280)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生物物理 / タンパク質間相互作用 / 遭遇複合体 / 分子シミュレーション / サンプリング / 自由エネルギー / 構造・機能予測 |
研究概要 |
タンパク質-タンパク質複合体の形成過程を水中での全原子モデルに基づいた精密なシミュレーションで研究することを目的として、24年度は方法論の確立と、対象とする系のシミュレーションを開始した。 Multi-scale enhanced sampling (MSES) 法を用いて、モデル系としてRNA分解酵素であるBarnaseとその阻害タンパク質であるBarstarの複合体系を選び、タンパク質間相互作用の遭遇から結合までの状態をサンプリングすることで、結合過程に到る自由エネルギー地形を記述することに成功した。昨年度の側鎖構造の緩和に関する問題は、側鎖の力場をより精度の高いものに置き換えることで解決した。これによって、極めて広い構造空間を経て、結合状態に到る道筋を理解することができるようになった。詳細な解析によって、結合過程から見れば、結合サイトは2カ所に分けられ、優先され形成されるサイトと律速となるサイトからなることがわかった。これによって、MSES法の基本的な方法論が確立したといえる。 この方法を用いて、より遭遇複合体状態が顕著なN-terminal domain of Phosphotransferase system, enzyme I (EIN)とPhosphocarrier protein HPrの複合体へのMSES法の適用を開始した。まず、結合構造の安定性を見るために、EIN/HPr複合体のNMR構造の分子動力学計算を行った。その結果は、NMRの平均構造から大幅にずれる緩和を示し、結合状態も分布を持った構造アンサンブルからなることがわかった。従って、そのままMSES法によって広範なサンプリングを開始すべきであるとの結論に達した。そこで、MSES法における粗視化モデルのパラメーターを決定する準備シミュレーションを開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、我々のmultiscale enhanced sampling法により、始めてタンパク質-タンパク質相互作用の形成過程の自由エネルギー地形を明らかにすることができた。この方法論の確立によって、原子レベルの詳細なモデルを用いた分子シミュレーションによって、形成過程における遭遇複合体の存在とその安定性、さらにはその役割が議論できる基盤が構築されたと言える。この成果は、この研究課題における当初目的を遂行する上で最も重要なものである。また、側鎖緩和が大きな障害であると考えてきたことが、より精度の高い力場を用いることで、非結号状態と結合状態でまったく異なったロータマーの分布を持つのではなく、その2状態において有力なロータマーは比較的限定されていることがわかり、それ自体が大きな律速段階ではないことがわかったことは、大きな進展であった。 続いて、遭遇複合体が顕著に表れるEIN/HPr複合体の計算を開始した。これは結合状態自体に極めて大きな揺らぎを持つものであることが判明し、当初の方針である結合/解離の2状態を接続する経路サンプルを行うことを放棄せざるを得ない状況に到った。そこでより広く結合状態をサンプルする方向に方針を変更し、現在準備シミュレーションを行っているところである。 以上のことから、方法論の確立では著しい進展があったが、その具体的な応用では、困難に直面している。それらをあわせて、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質ータンパク質複合体の形成過程を、原子レベルで分子シミュレーションによって明らかにすることが目的である。そのために、MSES法と経路探索法の両者を用いる予定であったが、これまでに遭遇複合体が顕著に見られる実験系においては、結合状態自体が広い分布を持っていることが示された。そこで、この問題に対しては経路探索法の適用は放棄し、MSES法のみで行っていくこととする。この方針の下、本年度中に、EIN/HPr複合体のシミュレーションを完成し、来年度にはhomeodomainによるDNA特異的配列の探索の問題を始めることができればと考えている。
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