タンパク質-タンパク質間相互作用は、多くの場合幅広い準安定状態を含む相互作用界面を持っている。そのような相互作用の自由エネルギーランドスケープを我々の開発したMultiscale Enhanced Sampling (MSES)法による水中の全原子網羅的サンプリングシミュレーションを用いて決定した。Barnase/Barstar複合体では、酵素-阻害タンパク質に特徴的な強く特異的な結合を反映した、単一の構造(生状態)に収束していく深いファネル型のエネルギー地形を与えた。植物の糖代謝に関わるEIN (Enzyme I N-terminal domain)/HPr (Histidine Rhosphocarrier protein)複合体では、弱く過渡的な相互作用に対応した浅く著しく広いエネルギー地形を与えた。また、この地形はNMRの常磁性緩和促進により実験的に得られている残基間距離分布と良好な一致を示した。この結果は、高々μモル程度の解離定数を持つタンパク質-タンパク質間相互作用における過渡的複合体は、相互作用形成経路上の準安定状態ではなく、平衡状態における極めて広い構造分布の準安定構造であり、それらは生状態の機能的構造の出現を一過性の過渡的なものとしていることが分かった。
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