研究実績の概要 |
多細胞体の発生では、個々の細胞の挙動が細胞間の接着・接触によるコミュニケーションで制御されることが重要である。本研究では、Hippo経路に着目して、細胞間の接触・接着によるコミュニケーションの分子基盤とその役割を研究し、以下の成果を得た。 1. 線維芽細胞株NIH3T3においてTead活性を操作した細胞を正常細胞と混ぜて培養すると、相対的にTead活性の高い細胞が勝者となり増殖し、活性の低い細胞が敗者となって排除される、細胞競合が起こる。その際、勝者の細胞では転写因子Mycの発現が上昇しており、Tead活性とMycとが協調的に細胞増殖と細胞競合活性とを制御していることを見出した(Mamada,Sato J Cell Sci 2015)。 2. 上皮細胞株MTD1AにおいてEGFPとYapの融合タンパク質を発現する細胞株を作成し、個々の細胞のYapの核移行の変動をライブイメージングで観察したところ、Yapの核移行はダイナミックに変動しているが、時間の経過とともに隣接細胞ではYapの核移行程度がそろうことが分った。すなわち、上皮細胞でも、隣接細胞間ではTead活性を認識し合うコミュニケーションが存在し、Tead活性を協調させる仕組みがあることが分った。 3. MTD1A細胞においてTead活性を増強した細胞(高Tead活性細胞)を作製したところ、正常細胞と共に培養すると高Tead活性細胞の増殖が単独培養時に比べて促進された。また、マウス胚においてもYapを過剰した高Tead活性細胞をモザイク状に作製したところ、高Tead活性細胞が正常細胞よりも活発に増殖した。このことは、隣接細胞間ではTead活性の違いを認識し、Tead活性の高い細胞が優先的に増殖するしくみがあり、それは細胞種によらない普遍的な現象であることを示している。
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