研究課題
集団内において類似した反応を示す個体が一定頻度以上で存在する場合、それらをまとめ集団内の小集団すなわち生理的多型とよぶ。これまでの研究では、その多型をもたらす要因を主に季節や生活環境などの環境要因から検討してきた。一方で、生理的多型に遺伝的背景がどの程度関与しているのか不明であった。そこで本研究では、寒冷適応との関係が示唆されているミトコンドリアDNA多型(ハプログループ)を遺伝的背景の一つとし、ヒトの寒冷曝露時の生理反応を中心に、生理的多型を構成する遺伝要因を検証した。また先行研究のあるハプログループと低圧低酸素適応の関連にも注目し、酸素代謝が密接に関連する低圧低酸素環境での生理反応も検討した。10℃の強い寒冷環境下において、夏期ではハプログループDは他のグループよりも直腸温の低下が小さかったが、冬期ではグループ間に差はなかった。すなわち季節性寒冷順応によって、体温調節反応が変化したと考えられた。また、ハプログループDは呼吸交換比が夏期に比べて冬期で低い傾向があった。この結果からハプログループDは、夏期に比べて冬期により脂質を代謝したと考えられ、このことは脂質代謝による非震え産熱の関与を示唆した。次に16℃の穏やかな寒冷環境下では、震えが生じていないにも関わらず、冬期では酸素摂取量の有意な増加が見られた。またハプログループDは冬期で酸素摂取量の増大が他のグループよりも大きかった。このような結果が得られた理由として、褐色脂肪の冬期における活性化が考えられた。また4000m相当の低圧低酸素環境に曝露した時、ハプログループDは他のグループよりも血中酸素飽和度(SPO2)が高かった。このようにミトコンドリアDNA多型はヒトの生理反応に影響し、生理的多型の一部を説明する可能性を示した。
25年度が最終年度であるため、記入しない。