研究課題
作物の形態は、収量や栽培のしやすさなどの農業形質と深く関連している。本研究では、イネを中心としてその形態形成メカニズムを明らかにし、それを将来の分子育種に活用することを目指して研究を進めている。イネの小穂には、護穎と呼ばれる他のイネ科植物には見られない特有の期間が存在する。G1遺伝子は、この護穎アイデンティティーを決定する遺伝子として見いだされた。G1が機能を喪失したg1変異体では、護穎が外穎様の大きな器官へとホメオティックに変化する。しかし、SUG1遺伝子に変異がおこると、このg1変異が抑圧され、小さな器官へと逆戻りする。このSUG1遺伝子を単離することを目的として、マッピングを行った。F2集団の表現型の判定が想定以上に難しく、SUG1が座乗する染色体は決めたものの、詳細のマッピングには至らなかった。また、sug1変異は、穂における小穂の着生パターンにも影響を与えることが判明し、新たな研究の展開の可能性が示された。ng6569系統では、細い小穂が生じる。この変異の原因となる遺伝子を同定した結果、ALOGドメインをコードするTRIANGULAR HULL1 (TH1) 遺伝子に変異があることが判明した(th1-6569アレルと命名)。詳細な表現型解析の結果、TH1はtubercle サイズを制御することによって、内外頴の幅を決定していることが明らかとなった。また、TH1は、内外頴の基部より先端部でより大きな役割を果たしていることが判明した。さらに、g1およびeg1変異体との2重変異体を作製し、これらの異所的外穎様器官へのth1変異の影響を調べた。その結果、th1変異はg1変異体の異所外穎の形態にはあまり大きな影響を与えないものの、eg1変異体の過剰外穎には、本来の外穎と同様の効果があることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
th1-6569変異体については、表現型解析をすべて完了し、遺伝子を同定することもできた。本変異体の解析中に、海外から同じ遺伝子の変異を解析した論文が出版されたが、詳細な表現型解析の結果、その論文では明らかにされていない点も解明するとともに、g1やeg1遺伝子との相互作用の解析も行い、いくつかの新たな知見が得られた。これらをまとめて、現在論文として投稿中であり、この遺伝子の解析に関しては、当初の計画以上に進展していると考えられる。一方、SUG1については、マッピング集団の表現型の判断が非常に難しく、座乗位置についてはある程度の絞り込みにとどまるに至った。しかし、sug1変異には小穂の着生のパターンに変異が見られ、花序構築にも関わるなど、当初予定していなかった役割をSUG1が果たしている可能性も示唆された。したがって、SUG1機能の推定については、順調に進んでいると考えられる。以上のことから、全体を判断して、今年の達成度は、おおむね順調に進展していると考えられる。
SUG1遺伝子を単離することが、今後の最大の課題となる。昨年度の経験から、マッピング集団における表現型解析のポイントがいくつか明らかになった。さらに、昨年度栽培したイネの中からマッピングに効果的に使える系統を多数見いだした。この材料と昨年度の経験を生かして、本年度は、SUG1遺伝子の座乗領域を絞り込み、できれば、遺伝子同定を行いたい。また、SUG1遺伝子の機能を調べるために、成熟した小穂の表現型に加えて、発生中の小穂を操作電子顕微鏡などを用いて、綿密に詳しく観察・解析する。さらに、昨年度見いだした小穂の着生パターンへの役割についても、詳細に解析を進める。葉の発生分化について、維管束分化に着目しつつ研究を進める。本研究テーマでは、維管束予定領域で発現していることが判明しているWOX4を中心にして解析を進める。WOX4の誘導的発現抑制、および、誘導的過剰発現の実験系を用いて、WOX4の維管束形成における機能を解明する。さらに、篩部や木部分化のマーカー遺伝子を用いて、in situ hybridization などを行い、 転写因子であるWOX4が制御する遺伝的ネットワークと維管束分化制御の詳細メカニズムを明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)
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http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/EvoGenet_3/Publication.html
http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/EvoGenet_3/Link.html