研究課題/領域番号 |
23248007
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柘植 尚志 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30192644)
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研究分担者 |
児玉 基一朗 鳥取大学, 農学部, 教授 (00183343)
花田 耕介 独立行政法人理化学研究所, 植物科学研究センター, 研究員 (50462718)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 植物病理学 / 菌類 / 植物 / 遺伝子 / ゲノム |
研究概要 |
先に、宿主特異的毒素を生産するAlternaria alternata病原菌のうち、イチゴ黒斑病菌、リンゴ斑点落葉病菌、トマトアルターナリア茎枯病菌の毒素生合成遺伝子(TOX)クラスターをコードする小型CD染色体の構造を決定し、TOX領域以外の構造が保存されていること、すなわち同一起源であることを見出した。CD染色体の進化的起源と進化過程を探るために、今年度は主に以下の研究を実施した。 1.CD染色体の構造類似性の確認(共同): 昨年度ドラフト配列を決定したイチゴ菌とリンゴ菌の他菌株のCD染色体について、PCRによってコンティグ間を連結し、染色体構造を菌株間で比較した。その結果、すべての菌株のCD染色体から、先に同定した保存領域が見出され、CD染色体の構造類似性が確認された。 2.CD染色体の分子進化学的解析(共同): 先に構造決定したイチゴ菌とリンゴ菌のCD染色体の遺伝子について、ゲノム情報が公開されている糸状菌遺伝子との分子系統学的解析を行った。その結果、TOX以外の遺伝子の多くがAlternariaが含まれるDothideomycetesクレードに分布するのに対して、TOXの多くがDothideomycetes以外の糸状菌クレードに分布することが明らかとなり、TOX以外の遺伝子が主要染色体遺伝子の重複によって、TOXの多くが水平移動によってそれぞれ成立した可能性が示された。 3.CD染色体と主要染色体の比較ゲノミクス(共同): TOX以外の遺伝子が主要染色体起源である可能性を検証するために、イルミナ社HiSeqを用いて、イチゴ菌、リンゴ菌、トマト菌、非病原性A. alternata菌株のゲノムドラフト配列を解析し、アセンブルを行った。さらに、イチゴ菌のRNA-Seq解析を行い、それらの情報を統合して各菌のゲノムドラフト配列のアノテーションを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度開始したCD染色体構造の菌株間比較をさらに進め、CD染色体のTOX領域以外の構造が保存されていることをさらに確認した。また、イチゴ菌とリンゴ菌のCD染色体にコードされる遺伝子の分子系統学的解析によって、TOX以外の多くの遺伝子が主要染色体遺伝子の重複によって、TOXの多くが水平移動によってそれぞれ成立した可能性を見出した。当研究グループでは、CD染色体には共通な起源染色体が存在し、その染色体にそれぞれ異なる毒素を生産するためのTOXクラスターが組み込まれたという、CD染色体の進化的起源と進化過程を想定している。上記の結果は、これを支持するものである。 イチゴ菌、リンゴ菌、トマト菌および非病原性A. alternata菌株のゲノムドラフト配列の解析とアセンブルを完了した。さらに、イチゴ菌のRNA-Seq解析の情報を統合して、各菌のゲノムドラフト配列のアノテーションを進めており、CD染色体と主要染色体の比較ゲノミクスの準備がほぼ整った。 先に、リンゴ菌のAM毒素生産に必要な全遺伝子を含むと推定されるBACクローンを単離した。今年度、PEG法によって、A. alternata非病原性(腐生的)菌株のプロトプラストへの本BAC DNAの導入を試みたが、形質転換体が得られなかった。さらに、エレクトロポレーション、パーティクルガンを用いた形質転換を試みている。 BAC DNAによる形質転換実験以外については、当初計画した研究の成果がほぼ順調に得られており、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から進めているイチゴ菌、リンゴ菌、トマト菌、非病原性A. alternata菌株のゲノム配列のアノテーションを行い、ゲノム情報を整備することが今後の重要な課題である。これら菌株のゲノム配列とCD染色体との比較ゲノミクスによって、CD染色体の起源となった主要染色体領域を探索する。また、ゲノム情報が公開されている糸状菌遺伝子群とTOX群の詳細な分子系統学的解析によって、それらの起源を探る。さらに、腐生的(非病原性)A. alternata菌株から起源となったdispensable染色体を保有する菌株を引き続き探索する。 リンゴ菌のAM毒素生産に必要な全遺伝子を含むBAC DNAのA. alternataの腐生的菌株、他の病原型、さらに他種菌に導入し、宿主特異的毒素、さらにCD染色体に依存した病原菌化の実証を試みる。 先に、イチゴ菌とリンゴ菌のCD染色体の全遺伝子について、各種培地における転写レベルをリアルタイムRT-PCR法によって定量し、ほとんどの遺伝子の転写レベルが著しく低いことを見出した。また、メチル化阻害剤(5-Azacytidine)処理によって、イチゴ菌のAF毒素生産量が増加する傾向が認められ、CD染色体遺伝子の発現がDNAメチル化によって抑制されていることが示唆された。そこで次年度以降は、DNAメチル化を中心に、CD染色体のエピジェネティクス制御についても解析する。 以上の研究によって、CD染色体の進化的起源と進化過程、CD染色体にコードされる遺伝子群の発現制御機構について解析する。
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