研究実績の概要 |
ガの性フェロモンはその分子構造から、末端に官能基をもつType-Iと、末端に官能基をもたないType-IIに大別されている。ヒトリガ科のアメリカシロヒトリ(Hyphantria cunea)はType-Ⅰ成分のZ9,Z12-18:AldとZ9,Z12,Z15-18:Ald(不飽和アルデヒド)及びType-Ⅱ成分のZ3,Z6,epo9-21:Hと1,Z3,Z6,epo9-21:H(エポキシアルケン)の両タイプの性フェロモン成分を同時に分泌している珍しい種である。本種のフェロモン腺で特異的に発現する酵素の遺伝子Hc_epo1を単離し、その機能解析により、この酵素はフェロモン前駆体である不飽和炭化水素の9位に特異的にエポキシ環を導入することを示した。分子系統解析により、Hc_epo1はP450のCYP341サブファミリーに属することが判明したため、CYP341B14と命名した。ガの性フェロモン生合成に関わるエポキシ化酵素は初めての発見であり、他種のガにおけるCYP341B14ホモログに関する知見は全くなかったため、つづいて近縁種のクワゴマダラヒトリ(Lemyra imparilis)のフェロモン腺からホモログを単離し確認をおこなった。CYP341の配列情報に基づいて、縮重プライマーを設計し、増幅産物を得たのち、RACE法により全長塩基配列(1530bp)を獲得した。この遺伝子をLi_epo1と名付け、演繹アミノ酸配列を解析したところ、Hc_epo1との相同性は88.4%であり、活性を持つために必要な、膜貫通領域、遠位のスレオニン残基とその周辺配列、K領域、芳香族領域、ヘム結合領域と近位のシス残基などのモチーフをN末端側より順に確認することができた。
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