研究課題/領域番号 |
23248011
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
西澤 直子 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (70156066)
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キーワード | 鉄欠乏 / 転写遺伝子 / IDEF1 / 鉄シグナル / 遺伝子発現制御 |
研究概要 |
植物の鉄栄養状態に関わらず恒常的に存在している2つの転写因子、IDEF1、IDEF2が、何らかのかたちで鉄欠乏のシグナルを感知することによって、シス配列IDE1、IDE2に結合し、鉄欠乏誘導性遺伝子群の発現を誘導する。IDEF1によって発現が制御される遺伝子の中には、鉄欠乏誘導性のbHLH型転写因子、IRO2が含まれる。IRO2は、さらにIRO2結合配列をプロモーターに持つ遺伝子群の発現を誘導する。IRO2によって発現が誘導される遺伝子の中には、AP2転写因子、NAC型転写因子の遺伝子が含まれており、これらの転写因子によってさらに下流の鉄欠乏誘導性遺伝子の発現が引き起こされ、カスケード状に多数の鉄欠乏誘導性遺伝子群の発現が誘導されると考えている。 IDEF1、IDEF2タンパク質が直接鉄と結合することによって発現が制御される、すなわち鉄の有無によって遺伝子発現のスイッチが入るのであれば、一番シンプルな鉄感知機構となり得る。そこで最初にIDEF1、IDEF2タンパク質が、鉄と結合できるかどうかを検定する。IDEF1のアミノ酸配列中には、ヒスチジン (H)、アスパラギン(N)の繰り返しからなる特徴的な配列が存在する。ヒスチジンは一般的にタンパク質の外側の溶媒に複数の残基が露出した状態で様々な金属をキレートすることが知られている。このことから、IDEF1自身が金属と結合して転写活性化能を変化させる「金属センサー」である可能性が考えられた。大腸菌で大量にタンパク質を発現させることに成功し、二価、三価と鉄の形態を変えてその結合能を、固定化金属イオンアフィニティー・クロマトグラフィー(IMAC)法により確認した。亜鉛やマンガンなど他の金属元素についても同様に結合能を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イネ科植物の鉄欠乏応答に関わる全く新規のタンパク質単離に成功した。このタンパク質を詳細に解析していくことにより、鉄栄養応答遺伝子発現制御に関わる新たな鉄感知機構の解明につながる。 IDEF1、IDEF2タンパク質が直接鉄と結合することによって発現が制御される、すなわち鉄の有無によって遺伝子発現のスイッチが入るのであれば、一番シンプルな鉄感知機構となり得る。そこで最初にIDEF1、IDEF2タンパク質が、鉄と結合できるかどうかを検定した。IDEF1のアミノ酸配列中には、ヒスチジン (H)、アスパラギン(N)の繰り返しからなる特徴的な配列が存在する。ヒスチジンは一般的にタンパク質の外側の溶媒に複数の残基が露出した状態で様々な金属をキレートすることが知られている。このことから、IDEF1自身が金属と結合して転写活性化能を変化させる「金属センサー」である可能性が考えられた。大腸菌で大量にタンパク質を発現させることに成功し、二価、三価と鉄の形態を変えてその結合能を、固定化金属イオンアフィニティー・クロマトグラフィー(IMAC)法により確認した。亜鉛やマンガンなど他の金属元素についても同様に結合能を検討した。 また、HNドメイン、あるいはPドメインを欠失したIDEF1タンパク質、あるいはイネに比べて短いHNドメインしか持たずPドメインを持っていないオオムギのIDEF1ホモログタンパク質を用いて同様の結合実験を行い、ドメインの機能を調べた。IDEF1およびIDEF2は、イネ科植物の鉄欠乏に応答する転写制御カスケードにおいて、現在知られている中では最上流に位置しているため、これらと相互作用する分子を探索することによりシグナルの源流を明らかにするために、酵母 Two-hybrid 法を用いて、IDEF1またはIDEF2と相互作用するタンパク質遺伝子をスクリーニングしている。
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今後の研究の推進方策 |
単離に成功した新規のタンパク質を詳細に解析し、鉄栄養応答遺伝子発現制御に関わる新たな鉄感知機構の解明につなげる。 DEF1、IDEF2タンパク質が直接鉄と結合することによって発現が制御される、すなわち鉄の有無によって遺伝子発現のスイッチが入るのであれば、一番シンプルな鉄感知機構となり得る。IDEF1のアミノ酸配列中には、ヒスチジン (H)、アスパラギン(N)の繰り返しからなる特徴的な配列が存在し、IDEF1自身が金属と結合して転写活性化能を変化させる可能性が考えられた。そこでIDEF1の鉄結合能を解析した結果、IDEF1は前述の特異的な領域を介して、二価鉄、亜鉛、銅、ニッケルなどの二価金属と結合することが明らかになった。 来年度は、これらの特異領域を欠失するIDEF1を発現する形質転換イネを作出し、IDEF1全長を導入した形質転換イネと比較することにより、この領域の植物体における機能を調べる。また、IDEF1およびIDEF2は、イネ科植物の鉄欠乏に応答する転写制御カスケードにおいて、現在知られている中では最上流に位置しているため、これらと相互作用する分子を探索することによりシグナルの源流を明らかにする。今年度に引き続き、酵母 Two-hybrid 法を用いて、IDEF1またはIDEF2と相互作用するタンパク質の遺伝子をスクリーニングする。同定された遺伝子について、データベース情報を基にその機能を推定するとともに、我々の研究室で蓄積されているマイクロアレイデータを基に発現の鉄欠乏誘導性、組織特異性などを調査することにより生理的な機能を推定する。鉄の感知に関わる可能性が高いと推定されたタンパク質の遺伝子については、過剰発現イネ、およびRNAi法による発現抑制イネを作製する。これらについて、鉄欠乏条件における耐性や遺伝子発現プロファイル、金属含有量の測定などの解析を行う。
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