研究課題
植物の鉄栄養状態に関わらず恒常的に存在している2つの転写因子、IDEF1、IDEF2が何らかのかたちで鉄欠乏のシグナルを感知することによって、シス配列IDE1、IDE2に結合し、鉄欠乏誘導性遺伝子群の発現を誘導する。IDEF1によって発現が制御される遺伝子の中には、鉄欠乏誘導性のbHLH型転写因子、IRO2が含まれる。IRO2は、さらにIRO2結合配列をプロモーターに持つ遺伝子群の発現を誘導し、カスケード状に多数の鉄欠乏誘導性遺伝子群の発現が誘導される。IDEF1、IDEF2タンパク質が直接鉄と結合することによって発現が制御される、すなわち鉄の有無によって遺伝子発現のスイッチが入るのであれば、一番シンプルな鉄感知機構となり得る。IDEF1のアミノ酸配列中には、ヒスチジン (H)、アスパラギン(N)の繰り返しからなる特徴的な配列が存在する。ヒスチジンは一般的にタンパク質の外側の溶媒に複数の残基が露出した状態で様々な金属をキレートすることが知られている。このことから、IDEF1自身が金属と結合して転写活性化能を変化させる「金属センサー」である可能性が考えられた。大腸菌でタンパク質を発現させて、鉄との結合能を、固定化金属イオンアフィニティー・クロマトグラフィー(IMAC)法により確認した。その結果、IDEF1は前述の特異的な領域を介して、二価鉄、亜鉛などの二価金属と結合することが明らかになった。これらの特異領域を欠失するIDEF1を発現する形質転換イネを作出し、IDEF1全長を導入した形質転換イネと比較したところ、この領域がイネの鉄欠乏初期応答に重要な機能を持つことが明らかとなった。さらに、鉄欠乏によって誘導される新規の鉄結合タンパク質HRZを発見した。
2: おおむね順調に進展している
IDEF1、IDEF2タンパク質が直接鉄と結合することによって発現が制御される、すなわち鉄の有無によって遺伝子発現のスイッチが入るのであれば、一番シンプルな鉄感知機構となり得る。IDEF1のアミノ酸配列中の、ヒスチジン (H)、アスパラギン(N)の繰り返しからなる特徴的な配列を介して、IDEF1 が、鉄や亜鉛と結合することを、固定化金属イオンアフィニティー・クロマトグラフィー(IMAC)法により明らかにした。これにより、IDEF1自身が金属と結合して転写活性化能を変化させる「金属センサー」である可能性が考えられた。また、これらの特異領域を欠失するIDEF1を発現する形質転換イネを作出し、IDEF1全長を導入した形質転換イネと比較したところ、この領域がイネの鉄欠乏初期応答に重要な機能を持つことが明らかとなった。IDEF1およびIDEF2は、イネ科植物の鉄欠乏に応答する転写制御カスケードにおいて、現在知られている中では最上流に位置しているため、これらと相互作用する分子を探索して、シグナルの源流を明らかにすることを試みた。酵母 Two-hybrid 法を用いて、IDEF1またはIDEF2と相互作用するタンパク質遺伝子をスクリーニングしたところ、IDEF1 と相互作用するIBP1, IBP2 など5種類のタンパク質を見出した。IBP1は、Bowman-Birkタイプのトリプシンインヒビターであること、IBP1 が、IDEF1と相互作用することによって、プロテアソームによるIDEF1の分解を防いでいることを明らかにした。さらに、イネ科植物の鉄欠乏応答に関わる全く新規のタンパク質単離に成功した。このタンパク質を詳細に解析し、鉄栄養応答遺伝子発現制御に関わる新たな鉄感知機構の解明への手がかりを得た。
IDEF1およびIDEF2は、イネ科植物の鉄欠乏に応答する転写制御カスケードにおいて、現在知られている中では最上流に位置しているため、これらと相互作用する分子を探索することによりシグナルの源流を明らかにしようとし、酵母 Two-hybrid 法を用いて、IDEF1相互作用するタンパク質の遺伝子をスクリーニングした。その結果、5種類の遺伝子が同定された。そのうちIBP1 は、Bowman-Birkタイプのトリプシンインヒビターであること、IBP1 が、IDEF1と相互作用することによって、プロテアソームによるIDEF1の分解を防いでいることを明らかにしている。残りの遺伝子について、データベース情報を基にその機能を推定するとともに、我々の研究室で蓄積されているマイクロアレイデータを基に発現の鉄欠乏誘導性、組織特異性などを調査することにより生理的な機能を推定する。鉄の感知に関わる可能性が高いと推定されたタンパク質の遺伝子については、過剰発現イネ、およびRNAi法による発現抑制イネを作製する。これらについて、鉄欠乏条件における耐性や遺伝子発現プロファイル、金属含有量の測定などの解析を行う。さらに、単離に成功した新規のタンパク質を詳細に解析し、鉄栄養応答遺伝子発現制御に関わる新たな鉄感知機構の解明につなげる。
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