研究課題
細胞は必須金属イオンを過不足なく濃度調節しつつ利用している。この点を、液胞が担う金属イオンの集積機能とそれを支えるプロトンポンに焦点を当て、分子素子自身とシステム全体としてのイオン調節機構の両面を解明することを研究目的とした。植物は必要な金属の余剰分を液胞に蓄え、必要に応じて細胞質に供給する。本研究では、液胞への金属集積を担うZn^<2+>/H^+対向輸送体(MTP1)とその機能を支えるH^+-ピロホスファターゼ(H^+-PPase)に焦点を当てる。二次能動輸送体は液胞膜プロトンポンプ(V-ATPaseとH^+-PPase)が形成するpH勾配を駆動力する。各分子の詳細な作動機構イオン濃度センサーを含む機能ドメイン、膜局在のダイナミズム、生理機能の特性,そして一次・二次能動輸送系の協調機構の解明を目的とする。さらに、金属イオンホメオスタシスに関わると推定される新規金属結合タンパク質(PCaP)について、金属イオン輸送系との関連に焦点を当てた。今年度は、MTP1についてイオン選択性とイオン輸送活性に機能する特定アミノ酸残基を、亜鉛結合領域、イオン選択領域等として特定した。さらに活性調節上きわめて重要と推定しているHisを多く含む領域(His領域)のタンパク質化学的な解析を進めて亜鉛結合数あるいは亜鉛結合による微細な構造変化を、ITCあるいはCDスペクトル解析で明らかにした。また、MTP1遺伝子を欠いた変異株(亜鉛感受性株)にMTP1遺伝子を導入すれば亜鉛耐性が回復することなどを明らかにした。また、H^+-PPaseとMTP1が根端領域で協調的に高いレベルで発現することを明らかにできた。金属結合タンパク質については、タンパク質化学的特性の一部を明らかにできた。
2: おおむね順調に進展している
液胞膜亜鉛輸送体MTP1は、植物の過剰亜鉛に対する耐性を規定する不可欠な膜輸送体である。そのMTP1がどのように亜鉛濃度を感知し、過剰分を液胞に能動輸送するのかを主要課題とした。部位特異的変異導入法で機能アミノ酸残基、たとえばイオン選択性や輸送活性に関わる残基、を特定することができ、論文投稿まで辿り着くことができた。さらに、機能部位を人工合成してそのタンパク質化学的特性を明らかにでき、全体として当初の予定をやや上回った成果である。一方、プロトンポンプに関する研究もおおむね順調に進展した。
(1)H^+-PPaseの構造と機能調節機構:植物から精製した分子の結晶解析から膜ドメイン部分の構造情報が得られる。予測される機能部位のアミノ酸を部位特異的に変異させた酵素を作成して機能を判定する。(2)H^+-PPaSeの可視化と細胞特異性、金属応答性の解明:自プロモータ::H^+-PPaSe-GFPを発現させた株を作出した。金属の過不足条件での組織・細胞でのH^+-PPaseの発現強弱、液胞形態を解析する。(3)Zn輸送体の亜鉛濃度センサー機能の解明:His領域は細胞質Zn^<2+>濃度のセンサーと推定される。His領域のタンパク質化学的特性を解析し、機能調節への寄与を解明する。(4)液胞プロトンポンプと金属輸送体変異株での金属応答性の解明:H^+-PPaseとV-ATPaseの機能欠失株が金属(Zn,Cuなど)の過不足条件でどのような表現型を示すかを解析し、金属ホメオスタシスにおけるプロトンポンプの寄与を判定する。
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