研究課題/領域番号 |
23248020
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
駒井 三千夫 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80143022)
|
研究分担者 |
白川 仁 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40206280)
後藤 知子 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00342783)
神戸 大朋 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (90303875)
島崎 伸子 岩手医科大学, 歯学部, 常任研究員 (30337258)
磯野 邦夫 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 技術補佐員 (70124550)
|
キーワード | 亜鉛 / 味覚障害 / 摂食障害 / 炭酸脱水酵素 / 亜鉛センサー |
研究概要 |
我々は、亜鉛欠乏性味覚障害の原因の一つに亜鉛酵素である炭酸脱水酵素 (Carbonic anhydrase:以下CA) 活性の低下があることを示してきた。そこで本研究では、ラットに程度の異なる亜鉛欠乏食を給餌し、味覚障害の発症を行動学的に追跡し、亜鉛欠乏性味覚障害のより有効な生理指標を検討することを目的とした。実験1.SD系雄ラット4週齢を、亜鉛含量の異なる実験食(欠乏食2 ppm、ペアフェッド対照群33 ppm、低亜鉛群4 ppm、亜鉛十分群33 ppm)と精製水にて2、4、6、8週間それぞれ飼育した。実験2.実験1と同様、SD系雄ラット4週齢を、同じ4群に分け、6週間飼育した。 実験1.PF群に比べてZn-Def群で、塩酸キニーネ選択率は8週目で有意に増加し、味受容能低下が示唆された。血漿亜鉛濃度は2週目、唾液分泌量は8週目、顎下腺中CA活性は6週目から、PF群に比べてZn-Def群で有意に低下した。また、塩酸キニーネ選択率と血漿亜鉛濃度、塩酸キニーネ選択率と唾液分泌量の間には有意な相関が認められないのに対し、塩酸キニーネ選択率と顎下腺中CA活性の間には有意な負の相関が認められた。実験2.PF群に比べてZn-Def群で、塩酸キニーネ選択率は9日目頃から上昇し、味受容能低下が示唆された。唾液中CA活性は、PF群に比べてZn-Def群で5週目から有意に低下した。特に、塩酸キニーネ選択率が50%以上の、味受容能低下が認められたZn-Def群の2個体においては、唾液中CA活性が著しく低下しており、その低下時期は他の個体より早期であった。 以上の結果より、亜鉛欠乏性味覚障害を呈するラットの生理指標として、顎下腺中CA活性が有効であることが示された。さらに、血液より採取が容易である唾液中CA活性も、顎下腺中CA活性同様に、味覚障害の生理指標として有効である可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下の解析を行ってきたが、一部の解析が不十分であるといえる。 I. 味覚障害モデルを用いた亜鉛補給時及び不足時の生理指標解析 1)唾液中に分泌される炭酸脱水酵素アイソザイムの解析については、分担者の島崎が検討してある程度の成果を得ている。すなわち、イミュノクロマトを用いたCAVIの検出が成功し、味覚障害患者で健常者の3分の1の値になっていることを明らかにした。この複雑で高価な方法を簡便に使えるようにする実用化が必要であると考えている。アイソザイムではないトータル活性については、ヒト唾液とラット唾液の両方で検討し、解析が可能であることを証明した。 2)ラット味受容膜における炭酸脱水酵素活性と味覚感受性変化の解析については、予定通り進めることができている。ただし、簡便な検査法が求められているため、唾液中の味覚障害因子と、考えられる遊離亜鉛またはタンパク質結合型亜鉛と味覚異常とがパラレルであるとの証明がまだなされていない。 II.摂食障害モデル動物を用いた亜鉛補給時及び不足時の生理指標解析については、以下の解析が不十分であるが、25年度から分析が可能な状況である。 1)視床下部摂食調節ペプチド発現の解析については、ペプチドダイアリシスシステムのシステムが整ったので、可能な状況となった。亜鉛補給時と味覚障害亜鉛不足時の状態における①摂食促進ペプチドとその受容体及び②摂食抑制ペプチドとその受容体の発現量を解析することが予備実験段階にある。 2)小腸上皮細胞における亜鉛トランスポーター(ZIP4/ZIP5)の発現変化: 京大の神戸らの検討によって進められており、亜鉛長期欠乏時のZIP4タンパク質発現量は上がることが確かめられたが、亜鉛センサーと考えていたGPR39には変化が認められなかった。さらに味覚との関連を具体的に確かめる予定である。平成25年度は、亜鉛補給時の変化も追跡する。
|
今後の研究の推進方策 |
25年度は、主として亜鉛を過剰に補給した時の生理指標の変化を計測する。すなわち、亜鉛不足状態での亜鉛の補給は健康な状態にするが、どの程度の日常摂取が望ましいかを、種々の生理指標値から推定する目的でこの動物実験系で設定する。なお、過剰摂取時でのヒトでの検討は行わないが、ヒト味覚障害時の指標解析は続ける。 I. 味覚障害モデルを用いた亜鉛過剰摂取時の生理指標解析 亜鉛十分食(33 ppm)を対照群として、亜鉛添加食として3倍添加食(99 ppm)、10倍添加食(330 ppm)で亜鉛を与え、2週間目と4週間目にサンプリングする。測定項目は、23年度、24年度と同様である。CA分泌と亜鉛トランスポーターとの関係の解明を目標に以下を検討する。 1)唾液中に分泌される炭酸脱水酵素アイソザイムの解析(ラット)飼育開始後、2週目と4週目にサンプリングを行い、24年度と同様の解析を行う。 2)ラット味受容膜における炭酸脱水酵素活性と味覚感受性変化の解析 II.摂食障害モデル動物を用いた亜鉛過剰摂取時の生理指標解析 亜鉛トランスポーターの発現量は、体内亜鉛濃度によって厳密に調節されているので、過剰の摂取は、この調節系を探るのに重要である。一旦亜鉛欠乏食を与えた後の過剰摂取の条件は、前項の結果から決める。欠乏食を給餌しながら3日後、6日後、9日後、12日後に亜鉛を経口で与えた場合(亜鉛過剰量=330 ppmと想定)に、各種測定項目を計測し、各指標への亜鉛の影響を精査する。 なお、以下の項目の測定は、23年度・24年度に準ずる。 1)視床下部摂食調節ペプチド発現の解析(マイクロダイアリシスを使用する)、2)小腸上皮細胞における亜鉛トランスポーター(ZIP4/ZIP5)及びGPR39の発現変化の発現変化
|