研究課題/領域番号 |
23248020
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
駒井 三千夫 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80143022)
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研究分担者 |
後藤 知子 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00342783)
島崎 伸子 岩手医科大学, 歯学部, 常任研究員 (30337258)
白川 仁 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40206280)
磯野 邦夫 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 技術補佐員 (70124550)
神戸 大朋 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (90303875)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 亜鉛 / 味覚障害 / 摂食障害 / 炭酸脱水酵素 / 亜鉛シグナル / ZnT |
研究概要 |
我々は、亜鉛欠乏性味覚障害の原因の一つに亜鉛酵素である炭酸脱水酵素 (Carbonic anhydrase:以下CA) 活性の低下があることを示してきた。そこで本研究では、ラットに程度の異なる亜鉛欠乏食を給餌し、味覚障害の発症を行動学的に追跡し、亜鉛欠乏性味覚障害のより有効な生理指標を検討することを目的とした。 CAの活性化には分泌経路に局在するZnT4、ZnT5、ZnT6、ZnT7の4つの亜鉛トランスポーターが重要な役割を果たす。これら4つのZnTを全て欠失させた細胞株に発現させたCAの活性は、それぞれのZnTの野生型を発現させると回復したが、亜鉛輸送活性を消失させた変異体を発現させても回復させることはできなかった。さらに、この変異体発現株に大過剰の亜鉛を加えて培養しても、CA活性を回復させることができなかった。これらの結果から、CAの活性化には、ZnTによってCA近傍の亜鉛濃度が高まった結果起こる受動的な機構ではなく、ZnTを介した何らかの特異的な機構により制御されていることが明らかとなった。また、耳下腺唾液中37kDa亜鉛結合タンパク質である炭酸脱水酵素(CA)VI型(Gustin)が味覚機能に関与するとの報告に基づき、唾液を検体としたCAVI抗体によるイムノクロマト測定値と血清亜鉛値との関連について検討した。その結果、味覚障害患者のCA VIのタンパク質発現量は有意に低下していることを見出した。これらの成果は、今後の研究に発展に光明を与えた。 消化管経由の亜鉛シグナルの解析については、GPR39ではなく別な因子が介在しているものと推察されたが、まだ解析途中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下の解析を行ってきたが、一部の解析が不十分であるといえる。 I. 味覚障害モデルを用いた亜鉛補給時及び不足時の生理指標解析 1)唾液中に分泌される炭酸脱水酵素アイソザイムの解析については、分担者の島崎が検討してある程度の成果を得ている。すなわち、イミュノクロマトを用いたCA VIの検出が成功し、味覚障害患者で健常者の3分の1になっていることを明らかにした。なお簡便に使える応用が必要であると考えている。アイソザイムではないトータル活性については、ヒト唾液とラット唾液の両方で検討し、解析が可能であることを証明した。2)ラット味受容膜における炭酸脱水酵素活性と味覚感受性変化の解析については、予定通り進めることができている。ただし、簡便な検査法が求められるため、唾液中の味覚障害因子と考えられる遊離亜鉛及びタンパク質結合型亜鉛と味覚異常との照合解析を進めているが、まだ不十分である。 II.摂食障害モデル動物を用いた亜鉛補給時及び不足時の生理指標解析については、以下の解析が不十分である。 1)視床下部摂食調節ペプチド発現の解析については、ペプチドダイアリシスシステムのシステムが整ったので実施した。そして、解析が可能であることを証明した。すなわち、亜鉛不足時の状態における①摂食促進ペプチド及び②摂食抑制ペプチドの発現量を解析したが、まだ例数が少ない状況である。2)小腸上皮細胞における亜鉛トランスポーター(ZIP4/ZIP5)等の発現変化: 京大の神戸らの検討によって進められており、亜鉛長期欠乏時のZIP4タンパク質発現量は上がることが確かめられたが、亜鉛センサーと考えていたGPR39には変化が認められなかった。今回ZnTsが新たにCA発現に関与することを証明したが、さらに味覚との関連を具体的に確かめる必要がある。亜鉛補給時の影響の例数もまだ少ない。
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今後の研究の推進方策 |
最近のラットの研究で、亜鉛を規定量の2倍程度餌中に入れて与えただけでも小腸上皮細胞の微絨毛が発達することが分かった。この意味もあり、平成26年度以降は、主として亜鉛を規定量の2倍程度補給時(2倍強化時)の生理指標の変化を計測する。すなわち、過剰給与ではなく、サプリメント程度の保健量補給時の状態での消化管亜鉛シグナルについて解析する。 I.亜鉛補給時の生理指標解析: 亜鉛十分食(33 ppm)を対照群として、亜鉛添加食として2倍添加食(66 ppm)、及び半量添加食(16 ppm)で亜鉛を与え、2週間目と4週間目にサンプリングする。測定項目は、23年度、24年度と同様である。CA分泌と亜鉛トランスポーターとの関係の解明を目標に以下を検討する。すなわち、1)唾液中に分泌される炭酸脱水酵素アイソザイムの解析(ラット飼育開始後、2週目と4週目にサンプリングを行い、23年度と同様の解析を行う)。2)ラット味受容膜における炭酸脱水酵素活性と味覚感受性変化の解析。 II.摂食障害モデル動物を用いた亜鉛過剰摂取時の生理指標解析 亜鉛トランスポーターの発現量は、体内亜鉛濃度によって厳密に調節されているので、保健量投与時の摂取は、この調節系を探るのに重要である。一旦亜鉛欠乏食を与えた後の保健量摂取の条件は、前項の結果から決める。以下の項目の測定は、23年度・24年度に準ずる。: 1)視床下部摂食調節ペプチド発現の解析、2)小腸上皮細胞における亜鉛トランスポーター(ZIP4/ZIP5)及びZnTファミリーの発現変化、3)行動薬理的指標の解析。 26年度は、とくに海馬依存性の機能を探る目的で、既設の「摂食行動モニタリング装置(行動薬理的計測)」とマイクロダイアリシス装置を駆使した実験を行う。
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