研究課題/領域番号 |
23248028
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邊 良朗 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (90280958)
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キーワード | 親潮系冷水域 / カタクチイワシ / 繁殖生態 / 初期生態 |
研究概要 |
2011年5月23日~6月21日に常磐・三陸沖合海域で、中央水産研究所調査船蒼鷹丸によるカタクチイワシの仔稚魚調査を行った。57調査点中25点で体長29-85 mmの仔稚魚が採集された。耳石日輪解析の結果、これらの仔稚魚は2月下旬~5月中旬に孵化した群であることがわかった。 2011年8月6日~8月13日に三陸沖海域で、学術研究船淡青丸によるカタクチイワシの産卵生態調査を行った。大船渡~尻屋崎の東沖合の全点で産卵が確認された。親潮の影響を受ける岩手県・青森県沖の全域が、夏季にカタクチイワシ産卵場となっていることが確認された。 2011年9月21日~10月15日に北海道~千島列島中部沖で、北海道教育庁実習船管理局の北鳳丸によるカタクチイワシ当歳魚調査を行った。55調査点中25点で体長62 mm以上の当歳魚が採集された。耳石解析の結果、これら当歳魚は60-264日齢であることがわかった。 東日本大震災によって、茨城県水産試験場、岩手県水産技術センター、釧路水産試験場との共同研究開始が23年度末と遅れたが、その後の調査で、三陸(宮古湾)・常磐(大洗)では春季から秋季に3~9月生まれのカタクチイワシ仔稚魚が採集された。このうちの7、8月孵化群には、3~6月および9月孵化群に見られない耳石半径―体長関係の群が混在することが分かった。 2013年3月12日に、本研究の研究代表者、連携研究者、協力研究者19名が会して「親潮系冷水域におけるカタクチイワシの資源生態学ワークショップ」を開催し、研究成果の報告・討論を行った。その結果、山陸・常磐沿岸域のカタクチイワシ資源に対する親潮系冷水域発生群の寄与が確認された一方で、対馬暖流系群が津軽海峡を通過して三陸沿岸域へ供給される可能性が指摘され、今後の課題としてその季節的・量的評価を行う必要が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、①親潮系冷水域産卵群の実態を把握して暖水性種であるカタクチイワシが冷水域で再生産する群を発生させるしくみを明らかにすること、②新たに親潮系冷水域で産卵する群を形成することに伴う資源構造の変化という視点からカタクチイワシ資源の量的変動のしくみを解明すること、③明らかになった生態学的特性に基づいて資源の保全と合理的利用の考え方を定式化すること、を目的としている。5年計画の初年度分を終了した段階で、常磐~千島列島中部沖の広い範囲において、カタクチイワシの仔魚・稚魚・当歳魚・成魚の標本を入手して、予定通り研究を開始した。常磐・三陸の沿岸海域における調査と既所蔵標本の分析は、大震災の影響によって開始が遅れたが、繰り越した研究費を用いた24年度の研究によって急速に進展して、遅れをほぼ取り戻した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究進展を踏まえて、次の点を中心に今後の研究を遂行する。①第2年度以降も、常磐から千島列島沖合海域におけるカタクチイワシ仔魚から成魚の標本蓄積を継続する。②常磐・三陸海域における仔稚魚標本の採集・分析と、既所蔵標本の遡及的解析を進め、2013年度前半までに震災による岩手県水産技術センターおよび茨城県水産試験場との共同研究の遅れを完全に回復する。③これらによって得られた標本・資料によって、親潮系冷水域におけるカタクチイワシの産卵場分布、仔魚の分布と沿岸資源への加入過程などを解明する。その後、④湧昇域カタクチイワシ類(北米太平洋岸)との資源量変動特性の比較、⑤大きく変動する親潮系冷水域資源と安定な黒潮系暖水域資源のそれぞれについて、資源の利用と保全方策を定式化する。⑥研究の進展によって得られた知見の発信を強化する。 ①については、2011年度と同様の標本採集を行う。②について、岩手県水産技術センターおよび茨城県水産試験場との協力研究を加速・推進する。④は、カリフォルニア海流域のカタクチイワシ類に関する資料を解析して日本のカタクチイワシと比較する。⑤について、本研究で得られた知見を統合し、またニシン科魚類におけるこれまでの知見とも総合して定式化を図る。⑥について国内の学会だけでなく国際的な学会での発信にも力を入れる。
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