研究課題/領域番号 |
23248028
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邊 良朗 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (90280958)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カタクチイワシ / 繁殖生態 / 初期生態 / 親潮系冷水域 |
研究概要 |
2011年8月6日~13日の三陸沖海域に続いて、2012年7月29日~8月5日に北海道太平洋沖海域で、学術研究船淡青丸によるカタクチイワシの産卵生態調査を行った。大船渡沖~襟裳岬以南の表面水温16℃以上の海域において産卵が確認された一方、襟裳岬以北の道東沖では卵・仔魚分布が見られなかった。岩手県水産技術センターによる、2012年採集の三陸中部沖採集標本を分析した結果、7、8月に表面水温が16℃を超えると産卵が起こること、表面水温が16℃以上でも9月には産卵活動が終息したことがわかった。以上の結果から、親潮水域南部と混合水域では表面水温が16℃以上になる7月・8月に集中してカタクチイワシの産卵が起こることがわかった。産卵場水温の下限16℃は黒潮系水域と同じであり、親潮系冷水域産卵群は低水温に適応した産卵生態を持つのではないと考えられた。 三陸(宮古湾)・常磐(大洗)では春季から秋季に3~9月生まれのカタクチイワシ仔稚魚が採集された。このうちの7、8月孵化群には、3~6月および9月孵化群に見られない耳石半径―体長関係の群が混在した。淡青丸による上記の産卵生態調査では、いずれの調査点においても南西方向の流れが卓越した。これらの結果から、親潮系冷水域で7,8月に産み出された卵仔魚が、産卵場に卓越する南西の流れに運ばれて、三陸・常磐沿岸に達すると考えられた。 2013年3月12日に、本研究の研究代表者、連携研究者、協力研究者19名が会して「親潮系冷水域におけるカタクチイワシの資源生態学ワークショップ」を開催し、2011・12年度の研究成果と各海域の資源状況に関する情報の交換を行った。その結果、山陸・常磐沿岸域のカタクチイワシ資源に対する親潮系冷水域発生群の寄与が確認された。対馬暖流系群カタクチイワシが津軽海峡を通過して三陸沿岸域へ供給される可能性が指摘された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、①親潮系冷水域産卵群の実態を把握し、暖水性種であるカタクチイワシが冷水域で再生産する群を発生させるしくみを明らかにすること、②新たに親潮系冷水域で産卵する群を形成することに伴う資源構造の変化という視点からカタクチイワシ資源の量的変動のしくみを解明すること、③明らかになった生態学的特性に基づいて資源の保全と合理的利用の考え方を定式化すること、を目的としている。5年計画の2年度を終了した段階で、①については暖水性種であるカタクチイワシが、夏季に産卵可能な水温に達した親潮系冷水域表層を産卵場として利用している、という産卵生態が明らかになり、これら親潮系冷水域産卵群が三陸・常磐のカタクチイワシ資源の一部を構成していることがわかった。②については、1990年代から継続している温暖レジームにおいて、夏季に親潮系冷水域表層がカタクチイワシの産卵可能な水温に達するという仮説が、①から導かれた。つまり、温暖レジームに限って親潮系冷水域産卵群が形成されることで、カタクチイワシの資源量変動幅が黒潮域(数倍)に比べて親潮系冷水域(十数倍)で著しく大きくなると考えられるのである。また、カタクイチワシ資源の繁殖特性値に関する遡及的解析によって、本種が資源密度に依存した特性値変動を見せないことが明らかになり、それがマイワシ(数百倍)やマサバ(数十倍)に比べて本種の資源量変動幅が比較的小さく安定していることの生態学的基礎であることがわかってきた。 以上のように、第1、2年度の成果によって①と②について重要な進展があり、5年間の全体計画のほぼ半ばに達したと判断している。③については、5年計画の最終年度で実施する。東日本大震災によって岩手県水産技術センターと茨城県水産試験場との研究協力が滞ったが、2012年度後半から協力研究を加速させており、2013年度前半に遅れを回復した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究進展を踏まえて、次の点を中心に今後の研究を遂行する。①これまでの知見によって得られた親潮系冷水域発生群の生態特性を新たなデータで検証・確認すること、②親潮系冷水域季発生群の資源量評価と太平洋北区カタクチイワシ資源への貢献度評価、③湧昇域カタクチイワシ類(北米太平洋岸)との資源量変動特性の比較、④大きく変動する親潮系冷水域資源と安定な黒潮系暖水域資源のそれぞれについて、資源の利用と保全方策の定式化、⑤研究の進展によって得られた知見の発信強化。①については、岩手県水産技術センターおよび茨城県水産試験場との協力研究を加速・推進する。②について、常磐・三陸沿岸へ加入した群に占める親潮系冷水域発生群の割合を、耳石酸素同位体比分析によって推定することで、量的評価と貢献度推定を行う。③は、カリフォルニア海流域のカタクチイワシ類に関する資料を解析して日本のカタクチイワシと比較する。④について、本研究で得られた知見を統合し、またニシン科魚類におけるこれまでの知見とも総合して定式化を図る。⑤についてこれまでは主に国内の学会において発信してきたが、今後は国際的な発信に力を注ぐ。
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