研究課題/領域番号 |
23248028
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邊 良朗 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (90280958)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カタクチイワシ / 親潮系冷水域 / 初期生態 / 繁殖生態 / 遡及解析 |
研究実績の概要 |
黒潮系暖水域と親潮系冷水域の間で、資源量変動に伴う親魚の生物特性値変動を遡及的に解析・比較した結果、暖水域では資源密度と親魚の体サイズの間に正相関がみられたが、冷水域では両者の間に関係がなかった。これは、マイワシやマサバで資源密度と体サイズの間に負相関が見られることと異なっており、カタクチイワシ資源の生態的特性であることが分かった。 道東・千島列島沖で夏季に採集したカタクチイワシ成魚は、体長120mm以上と大型で、生殖腺体指数も5.0~12.0と大きかった。成長速度指標としての耳石日輪間隔は30日齢で10μmを超え、60日齢で約20μmの極大値に達した。相模湾では春季に親潮系冷水域と同等の体サイズの親魚が出現し、40~50日齢時に日輪間隔が20μmの極大値に達した。耳石日輪間隔の変動様式から、相模湾の春季出現群と、夏季の道東・千島列島海域出現群の間に関係があることが示唆された。 仔魚期の成長速度を左右する環境要因をニシン亜目魚類3種で比較した。ウルメイワシは季節的水温変動によって成長速度の季節変動の約90%が説明されたが、マイワシでは水温変動が成長速度の季節変動を説明しなかった。一方、カタクチイワシでは成長速度変動の約60%が水温変動によって説明された。仔魚の成長速度は、ウルメイワシでは水温依存、マイワシでは餌密度依存と考えられ、カタクチイワシは水温と餌密度の双方に依存すると判断された。 耳石酸素安定同位体比は、仔魚期には水温と有意な負相関があったが、稚魚期では同一環境下でも安定同位体比の個体差が大きく、かつ経験水温に対する回帰直線の傾きが小さいことがわかり、同位体比から稚魚期における冷水域経験の有無を判定することが困難と考えられた。 日本海のカタクチイワシ卵仔魚分布データを収集した。卵仔魚が津軽海峡を跨いで分布することから、海峡を経由する太平洋側への輸送が想定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
資源量変動に伴う親魚の生物特性値の遡及解析から、カタクチイワシでは密度依存的な生物特性値変動が見られず、資源密度が高い年代には体サイズが大きく繁殖投資量もそれに比例して増大するという、他の小型浮魚類とは異なる特性を持つことがわかった。これは、好適な環境下ではカタクチイワシが体サイズを増大させ、それに比例して繁殖投資量も増大させて、資源量を増加させることを示唆している。新たな資源量変動の考え方が必要であることがわかってきた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を2010年に申請した時の想定のように、カタクチイワシ資源は2013年から急減を開始した。その結果、資源量高水準期とその後の減少期における野外データの蓄積を行うことができた。1980年代末からの資源量増加過程のデータの遡及的解析と、今回得た減少過程でのデータを総合的に解析して、親潮系冷水域におけるカタクチイワシ資源の変動の仕組みを解明する見通しが得られた。
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