研究課題/領域番号 |
23248028
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邊 良朗 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (90280958)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カタクチイワシ / 親潮系冷水域 / 初期生態 / 繁殖生態 |
研究実績の概要 |
三陸沿岸域におけるカタクチイワシ卵分布密度は1980年代には低かったが、1992年以降に急増した。分布密度の急増は、資源量が高水準となった1990年より2年間遅れて起こった。したがって、本種の親潮系冷水域への産卵場拡大は資源量を増加させる要因としてではなく、資源量増加の結果として起こったと考えられた。宮古湾における仔稚魚の分布密度は6-8月に高く、孵化日組成からこれらは三陸・道南・道東沖合域で発生した群と考えられた。一方で、仔稚魚の体長に対する頭長と耳石半径の相対成長は採集月によって変動し、宮古湾へは異なる環境履歴の複数の群が来遊したと考えられた。三陸中部沿岸のカタクチイワシ仔魚群の由来を、流動モデルJCOPE2の流向・流速データを用いた粒子追跡実験によって調べた。本種太平洋系群と対馬暖流系群の産卵が実測された緯経度格子に、2011年の1月1日-12月31日に毎日100個の粒子を投入し、宮古湾を想定した半径30分の円を到達海域として設定して、到達粒子数とその供給源を調べた。その結果、7月に金華山以北の親潮系冷水域由来の粒子からなるピークが認められた一方で、5月には和歌山県以東の黒潮系暖水域から、6月には能登半島以東の日本海から、少数ながら粒子が来遊した。以上のように、親潮系冷水域の三陸中部沿岸域では、当該海域沖合で発生した群に加えて、黒潮系暖水域や対馬暖流域から移入する群が混在することが、採集仔稚魚の形態的特性値解析と粒子追跡実験の両方で確認できた。「親潮系冷水域におけるカタクチイワシの資源生態学ワークショップ」を、2015年3月に東京大学大気海洋研究所(柏市)で開催し、最終年度を前にしてこれまで4年間の知見の総括と最終年度の研究計画の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
親潮系冷水域におけるカタクチイワシの繁殖生態について、産卵水温が黒潮系暖水域における産卵可能水温の範囲内にあること、初期生態については仔魚の経験水温が低いにもかかわらず黒潮系暖水域に匹敵する成長速度を達成していることが明らかとなり、親潮系冷水域において夏季に短期的に出現する産卵可能水温域を利用して再生産を行うことが明らかになった。粒子放流モデル実験を行い、対馬暖流発生群、黒潮域発生群、親潮系冷水域発声群の比率を月別に求めることができた。得られたこれらの知見をワークショップで報告し、冷水域カタクチイワシの資源研究者間で意見交換することによって、当該資源の生態について共通の認識を得た。
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今後の研究の推進方策 |
ニシン亜目魚類中で最も冷水域に適応しているニシンの繁殖生態と初期生態に関する知見を得て、冷水域カタクチイワシの生態と比較する。また、親潮系冷水域におけるカタクチイワシの産卵生態、加入生態に関する知見を総括して、冷水域への産卵場拡大の機序を理解する。また、初期生態の中で特に仔魚から稚魚への変態過程に着目して、初期生態における冷水域への適応過程を理解する。5年間の研究の総括として、親潮系冷水域カタクチイワシ資源の変動機構を考察する。
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