親潮系冷水域における卵仔魚の出現頻度から0.5℃間隔の水温階級について求めた卵仔魚分布指数は、15.0-15.5℃において高くこれ以上の水温階級で急速に低下した。親潮系冷水域における産卵が本種の産卵可能な水温範囲(15.0-26.0℃)の下限に集中することがわかった。同様の解析を日長について行った結果,13時間以下への短日化によって産卵が終息することがわかった。産卵に好適な日長(>13時間)と水温(>15℃)を満たす産卵可能水域の面積の変動は、必ずしも本種の資源量変動を説明しなかった。これは資源量低水準期の1980年代には東北沖合域に産卵可能な水域が存在したにもかかわらずほとんど産卵が行われなかったためと考えられ、親潮系冷水域への本種の産卵場拡大は産卵好適環境の拡大によってではなく、資源量増加の結果として起こったという前年度の結果が裏付けられた。親潮系冷水域の宮古湾・大洗と黒潮系暖水域の相模湾で、仔稚魚の半数変態肥満度(Cm50)を求めて比較した。仔魚は成長に伴って肥満度を増加させた。水温の季節的変動に関わらず肥満度が宮古湾で5.6・大洗7.4・相模湾7.4に達すると変態することがわかった。相模湾では水温低下に伴って仔魚の肥満度増加速度が低下したのに対して、大洗と宮古湾では肥満度成長速度が水温に依存せず、低水温下では相模湾の仔魚より早く変態した。カタクチイワシは親潮系冷水域の好適な餌料環境を利用して低水温下でより早く変態するという低温適応的な成長・変態動態をみせると理解された。ニシン亜目魚類中で最も冷水域に適応しているニシンについて、人工授精によって得た受精卵と孵化仔魚を計測した結果、卵仔魚サイズがそれらを産んだ親魚サイズに依存して個体群間で変異することが明らかとなった。また、宮古湾において仔稚魚が海草藻場、砂泥域、湾央深場を発達に伴って段階的に利用することがわかった。
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