研究実績の概要 |
昨年度までに、ミツボシキュウセンのde novo トランスクリプトームアセンブリを行い、リファレンストランスクリプトーム配列を取得した。加えて、不可逆的な性転換が誘導される“ポイント・オブ・ノーリターン” の前後の生殖腺から抽出したRNAをRNA-seq に供し、各サンプルから約3000万リード(PE 90bp)のシーケンスデータを取得した。本年度は、このポイントの前後の生殖腺において網羅的に発現解析を行い発現変動遺伝子の抽出・解析を行うことで、性転換を誘導する決定的な因子・分子メカニズムの同定を試みた。得られたショートリードを、作成したリファレンストランスクリプトーム配列にマッピングし、DEseq(R package)を用いて発現変動遺伝子を推定した。False Discovery Rate 0.01を閾値とした結果、638個の遺伝子が抽出された。この遺伝子群に対しGene Ontology解析を行い転写因子を抽出した。その結果、ポイント・オブ・ノーリターンの前後で変動している21個の転写因子が特定された。これらの遺伝子は、これまでに性転換との関連は報告されておらず、新たな性転換関連遺伝子である可能性がある。 ミツボシキュウセンの性転換は社会的な要因により引き起こされることから、ストレスなどの要因が関係している可能性が高い。本年度はストレスと関係のあるコルチゾルと性転換誘導の関係について調べた。ミツボシキュウセン雌にコルチゾル(200, 1,000μg/l)を6週間連続投与した。その結果、高濃度の処理群では完全に性転換した精巣と卵巣中に精巣組織を持つ生殖腺が観察された。更に、処理魚の血中雌性ホルモン量は対照群の雌よりも著しく低かった。このことから、コルチゾルは、雌性ホルモンの低下を引き起こし性転換を誘導する可能性が示唆された。以上の結果を論文としてまとめた。
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